自動車保険の考え方。弁護士費用特約って必要ですか?に答える
実際にはかなりマニアックな内容であり、弁護士が登場するケースも、この特約が使われるケースも、レアだとまで言わないが限定的である。まず、この特約が使えるのは、あなたが客観的に見ても過失ゼロの場合と、あなたが過失ゼロを主張中という2つの状況のどちらかに限定される。
あなたが過失100%の場合、あるいはあなたと相手で○対△というように(例えば7対3)過失割合が双方に出ることで双方合意している場合は弁護士は登場せず、あなたに代わって保険会社が交渉してくれるので、「弁護士特約」は登場しない。
あなたに過失が無い場合や、あなたが過失ゼロを主張している場合は、保険会社が相手に支払うべきお金はありませんということになり、そうなると保険会社はその事故処理から基本的に手を引く、という態度を取るのである。
少々やっかいなのは、私たち(代理店や保険会社)の目から見て、どう見てもあなたにも過失あるでしょ、という案件だが、本人が「私は悪くない!」と言い張っている場合(この状態をここでは「あなたが過失ゼロを主張している場合」と表現しています)は、やはり保険会社は手を引くことになる。
しばしば、「前に入っていた保険会社、おれは悪くないのに全然動いてくれなくってサー、頭来たから解約してやったぜ」というお話を聞くことがあるが、私は「それってひょっとしてこのゼロ主張問題で、保険会社の説明が下手でこの人が理解出来なかった、ということではないかな?」と思ったりする。
そもそも保険会社がどうして他人の事故に首を突っ込めるのかというと、あなたが過失によって相手の身体や車などを傷つけた場合、あなたは相手に弁償をしなくてはならないが、それを自動車保険の契約に従って保険会社があなたに代わって支払うのだから、
「保険会社も当事者の一人ですよね、当事者なので首突っ込ませてもらいますし、過失割合や金額についても交渉させてもらいますよ」
ということなのである。極めてまどろっこしい。なぜこのようにまどろっこしい理屈になるかというと、弁護士法72条(非弁行為の禁止)が立ちはだかっているからである。この法律は、大雑把に言うと「法律上の交渉を業として行えるのは弁護士に限る」ということを決めている。
上記の件では「保険会社は賠償当事者である」という立場で交渉をしているので、純然たる交渉のみを業として行っているのではありませんよ、だから弁護士法に抵触しないですよ、という訳である。聞いた話であるが、かつては自動車保険に示談交渉サービスは一切なかったそうだ。もちろん弁護士法に抵触するからである。
そこで保険会社が
「うちは金払うんだから当事者ですから、交渉だけして金もらってる訳ではないんですから、どうでしょう?」
と日弁連にねじ込んだ結果
「なら契約者が自身の過失を認め、その過失分の賠償義務を保険会社が契約者から代位して支払う場合に限って、保険会社による示談交渉を認めてやるよ」
ということになったんだそうだ。当時保険会社が
「うちが示談交渉しますよ」
とアピールし出した頃は
「何馬鹿なこと言ってんだ?出来るわけないだろう」
と相手にされなかったこともあったそうだが、時代は変遷し今では
「保険会社に示談を頼むなんて当たり前じゃん」
という時代になった。先人の苦労も報われた訳だ。
ただ、あなたが過失ゼロ(あるいはゼロを主張)の場合は、保険会社は当事者となれない、従って交渉出来ないという大きな穴があったのだ。弁護士費用特約は、まさにそのとき「保険会社は動きませんのでご自分で弁護士を立てて、心行くまでやっちゃってください。その費用を出します!」というものである。どうですか?マニアックでしょう。
自分がゼロだ、ということはすなわち相手が100だ、という主張であるが、問題になる代表例は
① 相手が過失100を認めない場合
② 相手が過失100を認めているが、修理費や医療費を支払わない場合
の2ケースである。こういうケースで保険会社の力を借りずに自力で解決するのは難しい。この特約が出来るまでは、相手への請求を諦める か、自費で弁護士を立てて争うか、トリッキーだが実務的な方法として、不本意ながらほんの少々自分の過失を認め保険会社に立ち上がってもらう、というようなことが行われてきた。大変珍妙な話だ。
この特約が発売されたとき、私は「頭の良い人がいて、考えたんだなあ」とかなり感心した。この特約で助かったという人も少なくないだろう。
しかし最近新聞に出ていたが、弁護士がこの特約を悪用し、法外な弁護士料を保険請求して問題になっているのだそうだ。保険会社では積極販売すべき特約から外そうか、という議論もあると聞いている。う~ん、うまくいかないなあ。
どうであろう?この特約の全容をイメージ出来たであろうか?で、この特約、付けますか?私は付けています。