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吉本新喜劇×松竹新喜劇!大阪におけるお笑い界のライバル

関西弁を喋ると吉本芸人?

関西弁のお笑い芸人がテレビに出ていると、「俺、吉本芸人って嫌いなんだよね」なんて言う御仁がいる。好き嫌いは人の勝手だが、なんで関西弁のお笑い芸人というだけで「吉本芸人」と決め付けるのだろう。関西芸人はみんな吉本芸人というのは、あまりにも短絡的すぎやしないか?

第一、最近では標準語の吉本芸人はいくらでもいる。しかしこんなことを言う御仁は、標準語の芸人に対して「吉本芸人」とは言わない。つまり、関西弁の芸人を「吉本芸人」と一括りにしたいのだろう。

そもそも、関西にいるのは吉本芸人だけではない。もう一つの勢力、松竹芸人だっているのだ。こちらは吉本興業のライバル、松竹芸能に所属する芸人である。現在では吉本興業に押されているが、全国的に有名な芸人を多数輩出している。

笑福亭鶴瓶
ますだおかだ
TKO
よゐこ
北野誠
安田大サーカス
まえだまえだ
森脇健児
キンタロー。

これらはみんな松竹芸人だ。「そんなことぐらい知ってるよ!」と言われそうだが、未だに吉本と松竹の違いを知らずに、トンチンカンな批判をしている御仁がいるので、あえて書いてみた。

二つの新喜劇

映画会社の松竹が演芸に進出したのは戦前だったが、松竹のお笑い文化が花開いたのは戦後まもない1948年(昭和23年)に松竹新喜劇が旗揚げされた時だった。渋谷天外(二代目)を中心とした松竹新喜劇は大阪で人気を得た。

その後、渋谷天外は病に倒れたが、稀代の喜劇役者・藤山寛美がエースとなると松竹新喜劇の人気は爆発した。藤山寛美は借金問題で一度は退団を余儀なくされるも、ファンの藤山寛美に対する人気は根強く、松竹新喜劇に復帰するとまたしても大ブームが起こった。

一方、戦前からお笑いの老舗だった吉本は、戦争のために壊滅的な打撃を受け、戦後はお笑いから手を引いていた。だが1959年(昭和34年)、松竹新喜劇に対抗すべく「吉本ヴァラエティ」を旗揚げした。戦前から人気漫才師だった花菱アチャコを中心に結成されたのだ。その後「吉本新喜劇」と改称し、上方演芸界は「二大新喜劇」時代となる。

吉本新喜劇と松竹新喜劇の違い

吉本と松竹、どちらも「新喜劇」と名乗っているが、両者は全く違う劇と言っていい。松竹新喜劇は俗に言う「泣き笑い劇場」で、人情話が中心である。演目が決まっており、観客を大いに笑わせながらも最後には泣かせるという、実に味わい深い劇だ。

一方の吉本新喜劇は松竹新喜劇との差別化を図るため、ストーリー性を度外視してナンセンスなギャグを徹底した。それはテレビ時代を意識した作りだった。視聴者を飽きさせないように、速いテンポでギャグを連発するという手法を採ったのである。

松竹新喜劇が1時間半の上演に対し、吉本新喜劇は1時間。松竹新喜劇はストーリー性があるため、途中から見ると意味がわからず、面白さが伝わらない。だが吉本新喜劇はストーリーが単純でしかも一発ギャグがふんだんに盛り込まれているから、どのタイミングで見ても笑える。しかも1時間という短さが現代人にはピッタリだ。

例えるなら、松竹新喜劇は古典落語、吉本新喜劇は漫才ということが言えよう。ストーリーをじっくりと聞かせて笑いを取る古典落語はテレビでその面白さを伝えるのは難しいが、忙しく動き回る漫才はテレビ向きと言える。

筆者が小学生の頃は、まさしく吉本新喜劇の全盛時代だった。毎週土曜日の午後1時からは朝日放送で、午後3時からは毎日放送で吉本新喜劇の中継があった。

当時小学生だった筆者は、午前中の授業を終えると飛んで家に帰って、サッポロ一番塩ラーメンをすすりながら吉本新喜劇に見入っていたものだ。当時の関西の子供たちにとって、土曜日の午後こそゴールデンタイムだったのだ。

それに対し、松竹新喜劇は月に一回ぐらいテレビ中継があったものの、小学生の筆者には難解で、面白さがよくわからなかった。だが、高校生ぐらいになって改めて松竹新喜劇を見ると、本当に面白いのである。子供の頃にはわからなかった笑いのツボが、そこにはあった。

二つの新喜劇の、これからの関係

1990年(平成2年)に藤山寛美が死去し、松竹新喜劇は窮地に立った。事実、それ以降のテレビ中継はほとんどない。今や「新喜劇」と言えば松竹ではなく吉本の代名詞となってしまった。それでも、現在は渋谷天外(三代目)を代表兼座長とし、藤山寛美の娘である藤山直美を迎えて松竹新喜劇の公演は行われている。

そして2010年(平成22年)には、渋谷天外が吉本新喜劇にゲスト出演した。吉本新喜劇と松竹新喜劇の初コラボである。上方演芸界のライバル同士が融合したのだ。さらに2013年の秋に吉本で公演する舞台「コメディ水戸黄門」には、松竹新喜劇から江口直彌が出演する。これからの吉本と松竹は、競争しながらも共存していくという路線を歩むのだろうか。

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