甲子園でこんなことがあったの！？あらゆるスポーツが行われた甲子園

1924年（大正13年）に完成した阪神甲子園球場は当初「甲子園大運動場」という名称だった。つまり、単なる野球場ではなかったのである。完成当初の中堅119mはともかく、両翼110m、さらに左右中間128mは野球場としてはいかにも広すぎる。

外野がこれだけ広かったのは、サッカーやラグビーなども行えるように設計されていたからである。即ち、甲子園は総合競技場だったわけだ。事実、現在の全国高等学校ラグビーフットボール大会や全国高等学校サッカー選手権大会の前身である日本フットボール優勝大会が甲子園で行われたこともある。

これだけなら「総合競技場」ではなく「球技場」だが、グラウンドだけではなくマンモススタンドも威力を発揮した。

1932年（昭和７年）10月１日、一塁側アルプススタンド下に体育館が完成した。柔道、剣道、フェンシングの他、バスケットボールやバレーボールまで行われた。特にバスケットは関西学生リーグ戦まで行われている。だが、ここまでならさほど驚かない。

体育館と同時に、三塁側アルプススタンド下にはなんと、温水プールが完成した。長さ25m、幅は10mで６コースあり、水温は25℃に保たれ室内は冷暖房完備、500人収容のスタンドを備え、日本水泳連盟公認の堂々たるプールだった。

温水プールとしては日本では東京のＹＭＣＡに次ぐ二番目だったが、甲子園温水プールは一般開放され、一般人も利用できる温水プールとしては日本初。当時の人々にとって、真冬でも泳げるなんて信じられなかっただろう。水洗トイレと並ぶ、甲子園ご自慢の最新鋭設備だった。現在、体育館と温水プールがあった場所はブルペンとなっている。

そもそも甲子園のこけら落としは、野球ではなく近隣の学童による運動会だった。まさしく「大運動場」だったわけである。その後「甲子園球場」と改称されたが、戦前はやはり運動会や体操大会が行われた。いかにも戦前らしいと思えるのは馬術大会と鷹狩り大会だろう。ここまで来るとスポーツと呼ぶのもためらわれる。

いや、実際にスポーツとは呼べない催し物もたくさんあった。野外映画鑑賞や歌謡ショー、さらには歌舞伎まで行われたのである。極めつけは戦車大博覧会で、甲子園の土を戦車が占領してしまった。もはや米英との戦争は避けられないところまで来ていたことを暗示させる。

だが、一番ビックリ仰天するイベントと言えば、スキージャンプ大会だろう。実際に甲子園でのスキージャンプを実現させたことも凄いが、そもそも球場でスキージャンプをやろうと考えた、その発想力に驚かされる。

1938年（昭和13年）１月９日、甲子園の左中間スタンドには高さ約30mの木造ジャンプ台がそびえ立っていた。新潟や長野から運ばれた雪がジャンプ台とグラウンドを覆い、ジャンパー達が次々と飛行する。４万人の大歓声が上がった。

しかし、当日に雨でも降れば雪が溶けて中止となってしまう。雪の運搬とジャンプ台の設置という莫大な費用が文字通り水の泡と化す、イチかバチかの企画だった。そのため、スキージャンプ大会はこの年と翌年の２回しか行われなかった。

戦後になると、このような催し物は行われなくなったが、その代わりに目玉となったのがアメリカン・フットボールである。現在まで続く、アメフト大学日本一を決める甲子園ボウルの第１回が行われたのが1947年（昭和22年）４月13日のことだった。

この日に甲子園を使わせて欲しいと主催者側が阪神電鉄に頼むと「その日はボクシングの興行が午後４時から内野グラウンドで行われるので、それまでに終わるなら外野グラウンドを使ってもよい」と使用許可が下りた。

ところが当日、午後１時から始まったアメフトの試合が長引いてしまい、第４クォーターに入った頃にボクシングの開始ゴングが鳴ってしまった。アメフトとボクシングが同時に行われたのは、この日の甲子園が最初で最後だろう。

平成の世になって、サッカーＪリーグのプレシーズンマッチが２回行われたことがあったが、現在でも毎年開催される野球以外のスポーツイベントと言えば、アメフトの甲子園ボウルの他は、西宮市の小・中学校が集う連合体育大会だけである（小学校と中学校は別々に開催）。こけら落としも学童運動会だったが、甲子園は未だに「大運動場」としての貌も持ち合わせているわけだ。

2006年に行われたアメフトの甲子園ボウル。この頃は外野の芝生部分を横に使っていたが、現在ではバックスクリーンからバックネット方向にフィールドが設置されている