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野球中継のカメラアングルは、他のスポーツとは明らかに違う!

 サッカーを生で観戦するとき、「どの席でも自由に座っていい」と言われたら、どの席を選ぶだろうか。大抵の人はメインスタンドの真ん中に座るだろう。中には「サポーター気分を味わいたい」という理由でゴール裏を選ぶ人もいるだろうが、「いい席」と言えばメインスタンドの真ん中である。当然のことながら、その席のチケット代が一番高い。なぜなら、メインスタンドの真ん中の席が最も試合を見やすいからだ。

 テレビ中継でももちろん、テレビカメラはメインスタンドに設置されている。場面によってカメラは切り替わるが、ずっとプレーを追っているのはメインスタンドにあるカメラだ。

 これは別にサッカーに限ったことではなく、ほとんどのスポーツでもそうだろう。試合を一番見やすい席のチケット代が一番高く、そこにテレビカメラを据えているのは当然だ。サッカー然り、ラグビー然り、バレーボール然り、バスケットボール然り。

 ところが、その大原則が通用しない競技がある。それが野球だ。

野球中継でテレビカメラがあるのは一番安い席!?

 野球で一番チケット代が高い席は、言うまでもなくバックネット裏である。打者が至近距離にあり、投手との対決を間近に見ることができ、さらに球場全体を見渡せる場所だ。

 では、テレビ中継でテレビカメラがあるのはどこか?答えはセンターやや左中間寄りである。つまり、バックネット裏とは正反対の位置だ。席で言えば外野席。要するに、チケット代が一番安い席である。

 プロ野球で応援団が陣取るのは外野席。即ち、サッカーにおけるサポーター席のゴール裏と同じだ。応援団は毎試合のように生観戦するので、懐事情からどうしても安い席を選ぶことになる。野球中継に限り、その安い席にテレビカメラを設置しているのだ。

センターカメラはいつから?

 ところが、昔は野球中継でもちゃんと「一番チケット代が高い席」にテレビカメラを据えていた。つまり、バックネット裏からの映像で野球中継を行っていたのである。

 では、現在のようなセンターカメラになったのはいつからなのか?それは1978年(昭和53年)からである。実はそれまでもテレビ局側はセンターカメラの導入を検討していたが、「捕手のサインが盗まれる」として球団側の反対に遭っていた。だが、ようやくこの年にセンターカメラが解禁されたのである。

 センターカメラからの映像により、野球中継も変わった。そのひとつが「アクセント・スポット(この呼称はテレビ局によって異なった)」という、一種のスローVTRである。これは投手が投げたボールの残像がハッキリと映し出される、という画期的なVTRだった。この映像は、センターカメラだからこそ成し得た技である。バックネット裏からの映像だと、球審に隠れてボールの残像が見えないからだ。だが、この斬新な映像も僅か1年でなぜか行われなくなる……。それでも、翌年にはスピードガンが登場して、センターカメラからの映像でスピードをより体感できるようになった。

 センターカメラからの映像は概ね好評だった。球筋が良く見えるからである。だが、筆者には馴染めなかったのを憶えている。やはり慣れたバックネット裏からの映像がいいな、と思ったものだ。

 ところが数年前に、あるテレビ局が実験的にバックネット裏からの映像で野球中継をしていた。それが見づらくて仕方がない。コースはわからない、球種はわからない、さらにボールが速いかどうかわからない、といったものだった。すっかりセンターカメラからの映像に慣れてしまったのである。慣れとは恐ろしい。

野球というスポーツの特殊性

 なぜ野球中継だけ安い席からの映像なのか?これは野球が、他の団体競技とは明らかに異なるスポーツだからとしか言いようがない。

 普通の団体競技は当たり前だがチーム戦だ。もちろん野球もチーム戦なのだが、個人戦という側面も持っている。試合の大部分がピッチャーとバッターの対決に費やされ、ボールがフェアグラウンドに飛ぶ時間は非常に短い。

 そこで野球中継では、ほとんどの時間を投手と打者の対決に照準を当て、センターから最も球道が見やすい映像をズームで捉えているのである。

 普通のスポーツ中継では、グラウンド全体を映しながら、局地戦になるとズームインする。だから見やすい席にメインカメラを据える必要があるのだ。

 だが、野球中継は全くの逆で、投手×打者という局地戦をメインに置いて、打球が飛べばカメラを切り替えてズームアウトするのである。だから、野球中継において常に映っているプレーヤーは投手、捕手、打者の3人のみであって、他の選手達はほとんど映らない。野球中継では、グラウンド全体が映るシーンが実に少ないのだ。

 団体競技でありながら個人競技、という野球の特殊性を、テレビ映像が証明していると言えよう。

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