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振り逃げってなぜあるの?野球ルールの不思議

阪神ファンの悪夢

2012年7月3日、松山坊っちゃんスタジアムでの阪神タイガース×広島東洋カープ戦。9回表、阪神が3-2でリード。広島も二死二、三塁と一打逆転のチャンスを迎えていた。しかし2ボール2ストライクからピッチャー榎田が投じた球を、バッター梵が空振り三振!試合終了で阪神、1点差を守り切り見事な勝利!と喜びかけたのも束の間、阪神ファンは我が目を疑った。

キャッチャーの小宮山が球を後逸、梵は一塁へ走り、三塁走者はもちろん、二塁走者までホームへ生還。広島が2点を奪って逆転に成功した。振り逃げとなったのである。振り逃げのために逆転された阪神はそのまま破れ、阪神ファンの間では「松山の悲劇」として永遠に語り継がれるだろう。

阪神ファンからすれば「なんで振り逃げみたいな、しょーもないルールがあんねん!」と誰もが思ったはずだ。では、なぜ野球には振り逃げがあるのだろう。

振り逃げがある理由

三振だってアウトの一つだが、アウトの守備記録には2種類ある。刺殺(プットアウト)と補殺(アシスト)だ。刺殺とは直接アウトにすることで、例えばセンターフライを捕るとセンターに刺殺が付く。

補殺とは間接アウトのことで、例えばショートゴロを捕って一塁に送球してアウトにするとショートに補殺が、ファーストに刺殺が付く。ここで気を付けたいのは、“捕”殺と書かれる場合が多いがこれは誤りで、正しくは“補”殺である。「アウトを補う」という意味だ。ちなみに、刺殺はどんなアウトにも必ず付くが、補殺は必ずしもそうではない。

では、三振の場合の守備記録はどうなるか?結論から言えば、キャッチャーに刺殺が付き、補殺はなしだ。三振はピッチャーの手柄だからピッチャーに刺殺が付くとか、あるいはピッチャーが投げてキャッチャーが捕るのだからピッチャーに補殺が、キャッチャーに刺殺が付きそうなものだが、そうはならない。

なぜなら、三振とは投手記録なので、守備記録とは別個に扱う。例えば三振振り逃げでアウトを取れなくても投手記録としての三振(奪三振)が付く。もちろん、アウトではないから誰にも刺殺は付かない。

三振アウトでキャッチャーに刺殺が付くということは、キャッチャーの守備によりアウトになるわけで、振り逃げというルールが存在する理由はまさしくここにある。三振でアウトにするためには、キャッチャーの直接捕球(ノーバウンドでの捕球)が必要というわけだ。

だからキャッチャーが直接捕球できない場合は即アウトにならず、打者は一塁へ走ることができる。ただし、一塁へ達する前に打者にタッグ(タッチのこと。このケースで「タッチ」と呼ぶのは和製英語で、ルール用語では「タッグ」という)するか、一塁へ送球すればアウトになる。

キャッチャーが一塁へ送球してアウトにした場合はキャッチャーに補殺が、ファーストに刺殺が付く。ところで「振り逃げ」と呼ばれているが、空振り三振だけでなく見送り三振の場合でも振り逃げは発生する。

キャッチャーが直接捕球できなくても振り逃げが成立しない場合

ただ、無死もしくは一死で一塁に走者がいる場合は、キャッチャーが直接捕球できなくても振り逃げは成立せず、打者は即アウトとなる。これはルールをややこしくしているわけではなく、合理的な理由がある。

このケースで振り逃げルールがあると、キャッチャーが3ストライク目の投球をわざと落とすことが考えられる。振り逃げがあったら打者は一塁へ走らなければならないから、一塁走者は押し出されて進塁義務が生まれる(フォースの状態)。

そうなれば、球を落としたキャッチャーは二塁へ送球し、ダブルプレーを成立させようとするだろう。そんな狡いプレーを防ぐためのルールなのだ。ただし、二死の場合にはダブルプレーは起きないから、一塁に走者がいても振り逃げは発生する。

故意落球と同じケースと考えていい。無死もしくは一死一塁で内野手の正面にライナーか小フライが飛んだ場合、アピールアウトを恐れる一塁走者は一塁に居座るだろうが、内野手がわざと落とすと一塁走者に進塁義務が生まれ、ダブルプレーが容易になる。それを防ぐために、このケースで内野手が球を落としても故意落球となり打者はアウト、一塁走者も一塁へ戻される。

三振の場合と違うのは、故意落球ではボールデッドとなるが、三振ではインプレーなので走者はアウトを賭して進塁を企てることができる。飛球を直接捕球したときと違って、三振にはアピールアウトがないからだ。

ではこの場合、刺殺は誰に付くのか。三振の場合はキャッチャーに、故意落球の場合は球を落とした内野手に付く。球を捕れなかったのに刺殺が付くとは理不尽な、と思うだろうが、このケースでは捕手や内野手が「球を捕ったもの」として扱うのだ。全てのアウトに刺殺が付く、というのが大原則なのだから、これは仕方がない。

普通の野球ファンはエラー以外の守備記録なんてほとんど関心がないだろう。しかし刺殺や補殺など守備記録のルールがわかれば、野球ルールの本質が見えてくる。

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