腕時計のルーツ。それは小柄な冒険家、サントス・デュモンにある!
自分が学生の頃は、「舶来」腕時計というと、オメガ、ラドー、チソットなどだった。今人気の高級ブランドは、まだ一般的ではなかったね。大人は、セイコーとかシチズンなんかの、ちょっと高めのラインをしているのを見て、いつか金ピカのセイコーが欲しいなって思ってた。
まあ中学の進学祝いで、セイコーのファイブスポーツを買って貰った。今ではめっきり姿を見なくなった、町の時計屋さんだったね。その時計は、40年経った今でもちゃんと動くよ。スモールセコンドの針は取れたけど、ちゃんと動く。日本のこういう職人の技術はすごいね。
高級腕時計というと、ロレックスの大人気が始まりだった気がする。ロレックスの本来の信条は、堅固で、防水、自動巻だ。防水はオイスター、自動巻はパーペチュアルだ。日付はデイトになる。つまり、いかに頑丈か、日常的使用が可能か、そんな表示なんです。
昔の広告を見ても、英仏海峡を泳いだ選手の腕には、ロレックス、そんなカンジ。いかに防水が優れていたか、それを謳っています。まあ昔の高級時計は、みんな防水じゃなかったからね、丈夫さがやっぱり売りなんだよ。
ラインナップも、普通のオイスターデイトから、ダイバー、ミルガウスの防磁機能、計測機能がついたデイトナでしょうか。ロレックスが人気になったのも、人気俳優のダレソレがしていた、そんなガッカリな理由が多いんですね。
だから、ダイヤモンドを入れたり、金無垢だったり、ラグジュアリーウォッチとか記すのは、ちょっとロレックスの成り立ちとは違うんです。
さて腕時計は、結構昔からありそうですが、1900年頃でしょうか。その重要な人物が、アルベルト・サントス・デュモンだ。ブラジルのコーヒー王を父に持った、優雅な冒険家だ。身長は153センチの小柄だけど、やることなすこと、破天荒の型破りなのだ。それが誰もやらなかった、空を飛ぶこと。
出で立ちは、麻のスーツにシルクのタイ、パナバ帽という、小柄だけどダンディだった。1800年の末に、飛行船からスタートし、パリのレースに出るけど失敗し、なんと6号機で成功。その後は、試行錯誤を重ね、1904年にライト兄弟が飛んだ。サントスは、飛行船から、飛行機へとチャレンジを変えた。そして20号機では、20分で20キロを飛んで、本格飛行機の時代になった。
彼の挑戦は、いつもパリの話題の的だったらしい。ブラジル生まれの、小柄だけどダンディな富豪が、冒険家として大空に挑んでるんだから、人気が出ないはずがない。そして何時しか、飛行機も売れることになった。
優雅な飛行船と違い、飛行機の操縦は必死だったので、悠長に懐中時計を見ることが出来なくなった。そこで、友人のルイに腕にはめることが出来る、時計を依頼した。ルイの名前は、カルティエ、あの宝飾ブランドのルイ・カルティエだ。
だからカルティエこそが、いわゆる腕時計を作った最初のブランドだ。のちにカルティエは、このサントス・デュモンの名にちなんで、「サントス」シリーズをラインナップして、今でも有名な腕時計である。
サントスの挑戦は、まだライト兄弟の前に空を飛ぶ、まさに命知らずの鳥人だ。なぜここまで執拗に、空を飛ぶことにこだわったのかは、よく分からないが、なによりメカ好きのオタク気質だった、今ではそういうサントスの冒険の解釈が出来るかも知れない。
もしサントスの腕時計を持つことになったら、それが冒険家の信念から生まれたんだ、そんな風に見るのも楽しいかも知れない。