中継ぎ投手の勲章・ホールド。しかしその解釈は日米では違う!?
割に合わない役目だった中継ぎ投手
野球ファンなら「ホールド」という記録があるのをご存知だろう。中継ぎ投手に与えられる勲章だ。
元来、中継ぎ投手は割に合わない役目だった。先発投手には勝利数、抑え投手にはセーブ数という勲章があったが、中継ぎ投手には何もなかった。あるのは防御率ぐらいだが、投手分業制が進んだ現代野球では、中継ぎ投手が規定投球回数に達することも稀になったのである。
しかし1996年に、日本プロ野球では最優秀中継ぎ投手をタイトルとして制定。パシフィック・リーグでアメリカ生まれのホールドを採用した。一方のセントラル・リーグではホールドではなくリリーフ・ポイントという独自の指標を打ち出したが、2004年に廃止されている。
ホールドの条件
中継ぎ投手に光が当たるようになったといっても、ホールドは地味な記録には違いない。野球ファンでもホールドの条件を正確に答えられない人は結構多いのではないか。では、ホールドが付く条件を見てみよう。
① 先発投手ではなく、救援投手であっても交代完了しない(自チームの最後の投手ではない)こと
② 勝利投手、敗戦投手、セーブ投手でないこと
③ 3点以内のリードで登板して、1イニング以上投げてリードを保ったまま降板すること
④ 連続本塁打を打たれれば同点もしくは逆転される場面で登板して、一死以上奪ってリードを保ったまま降板すること
⑤ 点差に関係なくリードしている場面で登板して、3イニング以上投げてリードを保ったまま降板すること
⑥ 同点の場面で登板して、一死以上を奪って点を与えず降板すること
⑦ 同点の場面で登板して点を与えず、登板中に味方がリードしたら、リードを保ったまま降板すること
⑧ ③~⑦のいずれの場面でも、走者を残して降板した場合、残した走者の数が同点もしくは逆転(負け越し)の走者として生還しないこと
要するに、セーブの中継ぎ版がホールドというわけだ。③~⑤は、途中降板以外はセーブの条件に当てはまる。また、ホールドの場合はチームの勝敗に関係なく付く。
勝利投手やセーブ投手は負けチームから生まれることは有り得ないが、ホールド投手は負けチームからでも記録されることがある。さらに、勝利投手や敗戦投手、セーブ投手は1試合に1人以下しかいないが、ホールド投手は複数生まれる可能性がある。
日米で違うホールドの解釈
ホールドは前述したようにアメリカ生まれの記録であるが、実は日本とは解釈が違うのだ。正確に言えば、日本が独自の解釈をしているということになる。
では、アメリカでのホールドの条件はどうなっているのか?これは簡単で、上記の日本での条件から⑥と⑦を除いた投手にホールドが付く。早い話が、同点の場面で登板しても、アメリカではホールドは付かないのだ。つまり、アメリカではホールドとはセーブの条件にほぼ準じているわけである。
日本でも同点の場面ではセーブは付かないが、なぜかホールドの場合は同点の場面でも付くようになっている。「同点を守ったまま降板したのだから、中継ぎとしての役目を立派に果たしたではないか」という解釈だろう。
しかしアメリカでは違う。「リードを保つのが投手」という考え方からか、たとえ中継ぎでもリードしている場面で登板して、リードを保って降板しないと認められない。日本流の「貢献度」が通用しないわけだ。アメリカには「味方が1点取れば0点に、3点取れば2点に抑えるのが一流投手」という考え方がある。リードを保つことに意義があるのだ。
考えてみれば、勝利投手というのも、リードを保つのが条件である。先発投手の場合、5イニング投げて10点取られても登板中に味方が11点取ってくれれば、味方がそのままリードを保って勝つと勝利投手だし、逆に9イニング投げて1失点でも味方が0点なら敗戦投手だ。
実に理不尽な話だが、アメリカ生まれの野球ではそうなっている。現在ではセイバーメトリクスが浸透して、アメリカでも単に勝敗のみで投手の査定はしないようだが。
ホールドポイント
2005年以降の日本ではセ・パ両リーグ共に、最優秀中継ぎ投手は最多ホールドポイントを獲得した投手に与えられる。ホールドポイントとは、ホールドに救援勝利を加えた数である。かつて、日本にはセーブポイントという記録があったが、それと同じ方式だ。
アメリカではセーブポイントはもちろん、ホールドポイントも存在しない。セーブはあくまでもセーブ。ホールドはあくまでもホールド。リードを保つことにこそ救援投手の意義がある、という考え方だ。
ホールドやホールドポイントを見ればわかるように、中継ぎ投手という地味なポジションでも日米で思考回路が違う。両国の国民性が垣間見えて、ちょっと面白い。