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1イニングに併殺打が2回!?世にも奇妙な野球ルール

実際に生まれた珍記録

2011年7月15日、ナゴヤドームで行われた中日ドラゴンズ×広島東洋カープ戦で、1イニング2併殺打という珍記録が生まれた。

「1イニングに併殺打が2回って、4アウトになったってこと!?」

と誰もが思うだろう。だが、そうはならない。ちゃんと3アウトでイニングを終わっている。しかし、併殺打が2回で3アウトでは、計算が合わないではないか。

併殺と併殺打の違い

そもそも、併殺打とは何か?「そんなの、打った結果が併殺になった場合だろ」と思うだろうが、実はそうではない。併殺とは言うまでもなくダブルプレイのことだが、併殺打にならない併殺もあるのだ。つまり、併殺打と併殺は違うのである。併殺打とは打撃記録で、併殺は守備記録だ。併殺打を説明する前に、併殺の定義を見てみよう。

併殺とは、例えば無死一塁でショートゴロ、二塁へ送球して1アウト、一塁へ転送して2アウトとなった場合、いわゆる6-4-3のダブルプレイという時だ。あるいは無死一塁でセカンドライナー、飛び出した一塁走者が一塁帰塁に間に合わずダブルプレイ、というケースもある。

また、無死三塁でレフトフライ、三塁走者がタッグアップ(タッチアップのこと。タッチアップ、タッチプレイなどは和製英語で、今後ルール説明の際は正しい野球用語を使用する)するも本塁寸前でタッグアウト、というのももちろん併殺だ。

連続するプレイで二つのアウトを取った場合、ルール的に言えば第一アウトの刺殺者が、第二アウトの補殺者か刺殺者になった場合にのみ、併殺が記録される。

例えば、無死一塁でショートゴロ、二塁に送球して1アウトとなるも、セカンドが一塁に悪送球、ところがバックアップしたキャッチャーが二進しようとする打者走者を刺した場合は、併殺とはならない。このケースではセカンドにエラーは付かないものの、1アウトと2アウトが連続プレイではないからだ。

では、併殺打とはどういう場合か。これまたルール的に言えば、フォース・ダブルプレイか、リバース・フォース・ダブルプレイの場合のみ記録される。

こんな用語、ほとんどの野球ファンは聞いたことがないだろうが、フォース・ダブルプレイとはランナーが一塁にいる時にフェアゴロを打って、フォースアウト絡みのダブルプレイとなることだ。上記で言えば6-4-3のダブルプレイのような場合である。

従って、無死二塁でショートゴロ、飛び出した二塁走者にタッグして1アウト、そのまま一塁に転送して2アウトとなった場合、当然のことながら守備側には併殺が記録されるが、打者には併殺打は記録されない。フォースプレイではないからだ。

リバース・フォース・ダブルプレイとは、例えば無死一塁でファーストゴロ、ファーストがそのまま一塁を踏んで1アウト、二塁に送球して一塁走者がタッグアウトになった場合だ。このケースではフォースプレイではないものの、例外として打者には併殺打が記録される。

打者がライナーを放ってダイレクトキャッチで1アウト、ランナーが飛び出して戻れず2アウト、という場合はもちろん併殺だが、打者には併殺打は記録されないのだ。また、走者三塁で外野フライ、タッグアップで本塁を突くもタッグアウト、という場合でも併殺打とはならない。

併殺とはならない併殺打もある

これで併殺と併殺打の違いがわかったと思うが、まだ疑問が残る。それならば冒頭に示した中日×広島戦で、なぜ1イニングに2回も併殺打があったのか?実は、併殺打にならない併殺があるように、併殺にならない併殺打もあるのだ。

例えば無死一塁でショートゴロ、二塁に送球して1アウト、一塁に転送してダブルプレイ、と思いきやファーストが落球した場合だ。いわゆる併殺崩れの場合には悪送球があってもエラーは記録されないが、第2アウトの際に好送球を落球すればエラーとなる。

従ってこの場合は、ファーストにエラーが記録されるのだ。ファーストがキチンと捕球していればダブルプレイが完成していた、というわけだ。

ダブルプレイが完成していないのだから併殺にはならないが、打者にはなんと併殺打が記録されるのだ。併殺にならなかったのは相手が勝手にエラーしただけだから、打者には併殺打として責任を取ってもらうよ、というわけである。

冒頭の中日×広島戦では、広島の東出がセカンドゴロ、4-6-3と転送されるもファーストが落球してエラーとなったが、東出には併殺打が記録された。続く木村もセカンドゴロで、今度は正真正銘の4-6-3のダブルプレイ。かくして1イニング2併殺打という、世にも奇妙な珍記録となったのだ。

高等数学者でも解けないような野球のルールだが、ルールの考え方さえわかれば自然と理解できるようになる。

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