長いものに巻かれろというのは、仕事において悪いことなのか?
長いものに巻かれろ、そんな状態を嫌う人がしばしばいます。私の職場の同僚にもいますね。そういう人たちに言わせれば「他人と同じことをするのはみっともないこと」なのだそうです。
会社の歯車として「働かされている」自分のイメージが、どうしても納得のできないものなのでしょうか。
私は個人的に、長いものに巻かれろという考え方に反発しません。なぜなら、長いものに巻かれながら必死に努力を続けて、結果として大きな成功をつかんだ友人を知っているからです。
みんなと違うことがしたい、今の仕事にどうしても納得が出来ないという人にとって、私の友人の体験談は非常に意義のあるものであると思いますので、ここで公開したいと思います。
私の友人は、小説家志望でした。もともと漫画家にあこがれていたそうなのですが、絵で食べていくという現実が思いのほか厳しいと分かったために、ちょっと鞍替えして小説家を目指すことにしたそうです。
私に言わせれば、小説家になることも漫画家になることと同じくらい厳しいことだと思うのですが、友人の言葉を借りれば「もうすでに漫画家への道を挫折しているのだから、これ以上の妥協はしたくない」ということでした。昔から妙に頑固な部分のある人で。
でも、確かに友人はたいへんな読書家だったので、物語を書く素養というものがたしかに備わっていたのかもしれません。
私も彼の作品を何度か読ませていただきましたが、下手をすると本屋で並べられている期間本より味があっていいのではないかと思わされるものもありました。
彼は、自作を一人でも多くの人に読んでもらうため、ブログを開設したり、あるいは小説投稿サイトに自作を持ちこんだりと、精力的に活動していました。
けれども、現実というものはなかなか厳しかった。大学生活の四年、さらには院に進学した後の二年。学生時代というモラトリアムの間に、彼は夢をかなえることができませんでした。
私が知る限り、十五作程度は出版社に応募したはずです。いくつかは手ごたえのある結果を得られたようですが、それでも、新人賞の受賞並びに出版というステップを踏むまでには至りませんでした。
彼は日ごろからあまり感情を表に出すタイプではありませんが、それでも落選を繰り返すたび、非常に悔しがっていることがありありと伝わってきました。当たり前です、自分の夢が打ち砕かれても悔しくないなんて人はいません。
結局、彼は一般企業に就職しました。
彼自身も「長いものには巻かれろ」という考え方に不満を持っていたようで、しきりに愚痴をこぼしていました。
現在、どうしてもかなえたい夢があるために、定職に就かずアルバイト生活を送る若者がたいへん多いと聞きます。
そういう生き方を頭から否定することはできないのですが、でも、生活をしていくためにはある程度の収入が絶対に必要になると分かっている以上、長いものには巻かれろという考え方も忘れるべきではないのです。
長いものには巻かれろ、つまり、大多数の人と同じように、ルーティンワークに身をゆだねる生き方。
その生き方にどれほどの反感を持っていたとしても、まずは生活の基盤を作ることが夢の実現にとって不可欠なので、叶うのがいつになるのか分からない夢を追いかける目を少し休めて、冷静に、もうちょっとだけ身近な問題に立ち向かってみましょう。
私の友人も、一旦は「長いものに巻かれる」決断をしたことが、最終的にはよかったのではないかなと思います。
現在、彼は作家です。
コツコツと仕事を続けながら、同じくらいコツコツと夢に向かって手を伸ばし続け、ついにそれをつかみ取ったのです。
友人の体験談を考えれば、ルーティンワークに身を投じることが必ずしも悪いことばかりではないという見解が見えてきますね。