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プロレス漫画の金字塔「プロレススーパースター列伝」の信憑性は?

 1980年から連載されたプロレス漫画があった。「プロレススーパースター列伝(以下、「列伝」)」である。原作は梶原一騎で作画は原田久仁信という黄金コンビだった。

 梶原一騎原作のプロレス漫画といってすぐに思い出すのは「タイガーマスク」だが、こちらは実在のレスラーが登場するとはいえフィクションだった。でも「列伝」は各スターレスラーの真実を語るというノンフィクションとして謳われていたのである。

 従って「タイガーマスク」のような実現不可能な技は出て来ることなく、それゆえに迫力満点の漫画だった。当時のプロレスファンは誰もが「列伝」に夢中になり、「このレスラーにはこんな過去があったのか!」と驚きの連続だったのである。

 だが、今になって読み返してみるとほとんどが創作だったことがわかる。ただ、フィクションの中に少しだけ事実が含まれているので、逆にリアリティがある作品に仕上がっていたのである。

ハンセンが高卒!?

 ますはスタン・ハンセン編から。ハンセンは子供の頃からケンカに明け暮れ、悪童と呼ばれた。スタン少年の将来を母親は心配したが、ハンセンは高校を卒業するやいなや地元プロモーターの元に飛び込み、パワーを見込まれてプロレスデビューした。

 となっているが、ブルーザー・ブロディ編でのハンセンは、ブロディと共にウエスト・テキサス大学でアメリカン・フットボール部に所属し、卒業後はプロ・フットボーラーになるかプロレスラーになるか悩むが、結局は選手寿命の長いプロレスラーを選ぶことになる。

 同じ作品でもこれだけ違うものかと感心するが、真実に近いのはブロディ編のほう。ハンセンが大卒なのはよく知られており、ブロディとチームメイトだったことも周知の事実だ。

 真実に近いとはいえ、ブロディ編も怪しいものだ。漫画の中ではハンセンとブロディは大学時代から同級生の大親友と描かれているが、実際にはブロディの方が三年先輩であり、親友というわけでもなかった。プロレスラーになって二人は再会するが、ハンセンはブロディのことを「あのクレイジーでワイルドな男」という認識しかなかったようである。

 また、漫画の中でハンセンとブロディが卒業時に将来の進路について話し合っているが、ハンセンは前述のようにフットボールではなくプロレスを選んでいる。ところが実際には、最初にまずプロ・フットボーラーになっているのだ。その後、プロレスラーに転向したのかと言えばそうでもない。フットボールではレギュラーの当落線上だったので、安定した職業としてハンセンはなんと教職の道を歩むことになったのだ。つまり、ハンセン編のように母親が心配するような悪童ではなく、むしろインテリだったのである。だが、教師の給料は安すぎたので、テリー・ファンクの勧めもあってプロレスラーとなった。

タイガーマスクのメキシコ時代

 お次に登場はタイガーマスク(初代)。タイガーマスク編はリアルタイムと同時進行の場面が多く、試合の描写などは事実に近い。だが、過去となるともうハチャメチャ。まず、タイガーマスクの正体候補として佐山サトル(聡)が挙げられているが、漫画の中では否定されている。これは仕方あるまい。当時はまだ、正体は秘密厳守だったのだから。

 問題はタイガーマスクとなる前のメキシコ時代である。タイガーマスクのメキシコでの最初のリングネームは白覆面のサミー・リーだった、となっている。しかしメキシコの老記者の勧めでティグレ・エンマスカラドと改名した。スペイン語で虎の仮面、即ち英語でいうタイガーマスクだった。動きがアジアの虎のようだったから、というのが改名の理由だが、そのことを知ったアントニオ猪木は「偶然の一致」と驚いた。タイガーマスクとして日本でデビューする前に、既にタイガーマスクと名乗っていたからである。

 実際はどうか。ティグレ・エンマスカラドというのは、タイガーマスクとなってからメキシコ遠征したときのリングネームであり、単にスペイン語にしただけで偶然の一致でもなんでもなかったのである。ちなみにタイガーマスクとなる前のメキシコでのリングネームはサトル・サヤマ。本名そのままやん!だった。当然素顔で、白覆面などしていない。

 もう一つ言えば、サミー・リーというのはメキシコではなくイギリスでのリングネーム。この時も素顔だった。漫画ではティグレ・エンマスカラドの後はペイントレスラーのミスター・カンフーとなり、イギリスでも同じスタイルで戦っているが、そんな事実はない。

壮大なるファンタジー

 まだまだ他のレスラーもいるのだが、字数も尽きたのでこれぐらいにしておく。でも「列伝」に信憑性がなかったからといって、作品が色褪せるわけではない。当時は誰もが漫画の内容を真実だと思い込んでいた。

 これこそ梶原ワールドの真骨頂、壮大なるファンタジーなのである。

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