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抑え投手の勲章・セーブ。その価値は昔と今とでは大きく変わった

近代野球には欠かせないクローザー

9回、マウンドに上がった守護神。剛速球で相手打者をバッタバッタとなで斬り、リードを守りきってゲームセット。スタンドからは大歓声が湧き上がり、守護神がマウンドから降りてきてチームメイトと勝利の握手を交わす。

プロ野球ではこんなシーンがすっかりお馴染みになった。守護神、即ちクローザーと呼ばれる抑え投手は現代の野球には欠かせない存在だ。先発を任されるエースとは一味違う存在感を示す。

そんなクローザーの勲章となっているのがセーブだ。年間に最も多くセーブを挙げた投手が「最多セーブ投手(セーブ王)」として表彰される。つまり、「最も優れたクローザー」というわけだ。ところが、日本ではセーブ王が「最も優れたクローザー」とはならなかった時代がある。どんな事情があったのだろうか。

セーブの条件

その前に、セーブの条件を説明しよう。セーブは勝利チームの救援投手にしか付かず、それも最後まで投げきった投手、さらに勝利投手ではないのが条件だ。それ以外では、以下の条件を満たした投手にセーブが付く。

●3点以内のリードで救援登板し、1イニング以上投げてリードを守りきり、完了
●連続本塁打を浴びると同点もしくは逆転される場面で救援登板し、1/3イニング以上投げてリードを守りきり、完了
●点差に関係なくリードしている場面で救援登板し、3イニング以上投げてリードを守りきり、完了

リードを守りきり、というところがミソだ。チームがリードしていない場面で登板しても決してセーブは付かないし、一度でも同点もしくは逆転されてもセーブは付かない。

昔は少なかったセーブ数

では話を元に戻して、日本ではなぜセーブ王が「最も優れたクローザー」にならなかったのか。日本プロ野球でセーブが記録として残されるようになったのは1974年。同時に最多セーブ投手を表彰することになった。この年、セントラル・リーグの最多セーブ投手は星野仙一で10セーブ、パシフィック・リーグは佐藤道郎の13セーブである。

この数字を見ると、今の野球ファンは「たったそれだけでセーブ王!?」とビックリするだろう。ちなみに、日本で年間最多セーブ数記録保持者は岩瀬仁紀(2005年)と藤川球児(2007年)で、1年間で挙げたセーブは46個だ。星野や佐藤の約4倍である。

もっと驚くのは77年のセ・リーグで、最多セーブ投手の鈴木孝政、山本和行、新浦寿夫(現・壽夫)が挙げたセーブ数は各9個。なんと一桁である。もちろん、当時も今とセーブの規定は変わっていない。なぜ昔の救援投手はセーブ数が少なかったのだろう。

日本のみにあった「セーブポイント」

その理由の一つに、当時はまだ投手の分業制が確立していなかったことが考えられる。抑えを任されていた投手がチーム事情で先発したり、大事な試合ではエース級の先発投手が抑えに回ったり、ということがよくあった。行き当たりばったりの投手起用が多かったのである。

さらに、抑えを任された投手であっても、同点の場面で登板することは珍しくなかった。同点で登板しても、当然セーブは付かない。当時は勝てる可能性があれば、いい投手をどんどんつぎ込む時代だったのだ。それも8回から登板するのは普通で、場合によっては7回から抑え投手が登板したのである。現在なら最多勝争いに顔を出しても決して不思議ではない。

そんな事情を考慮して、日本では「セーブポイント」という記録を打ち出した。セーブポイントとは、セーブと救援勝利を合わせた数のことである。セ・リーグでは76年から、パ・リーグでは77年から最多セーブポイントを挙げた投手を「最優秀救援投手」として表彰するようになった。

前述した77年セ・リーグの最優秀救援投手は鈴木孝政で、セーブポイントは23個。この年の鈴木のセーブ数は9個だったから、救援勝利が実に14勝だったわけである。

ちなみに、メジャーリーグではセーブポイントという概念はなく、あくまでもセーブのみ。メジャーでは昔から「クローザーが登板するのはリードしている場面のみ」という考え方が徹底していたのである。

セーブポイントもやがては死語に

90年代後半になると日本でも投手の分業制が確立し、クローザーは勝っている場面での登板に限り、しかも1イニング限定だ。そうなると、「救援勝利」というものが全く意味をなさないものになった。当然である。リードしている場面で登板して勝利投手になるということは、リードを守りきれずに同点もしくは逆転を許したということである。

つまり、救援勝利はクローザーにとって、恥以外の何物でもないわけだ。よって2005年にセーブポイントは廃止され、最多セーブ投手のタイトルが復活した。野球の記録も時代と共にその価値が変わっていくものだ。

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