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大阪駅と梅田駅、同じ場所にあるのになぜ駅名が違う?大阪の特殊事情

地方から大阪に来た人の困惑

関西以外の人が、例えば甲子園に行く時、大抵の人が戸惑うという。新幹線で新大阪駅に着く。そこから東海道本線(JR京都線)に乗って大阪駅に行く。そこまではわかる。ところが、大阪駅からどうやって阪神電車の梅田駅に行けばいいのか、それがわからないらしい。

「大阪駅から梅田駅への路線は走っていないみたいだし……」などと思って大阪駅前のタクシー乗り場に行って、タクシーの運転手さんに「すいません、梅田まで」。

「なめとんかい、ワレ!」なんて運ちゃんに怒鳴られたりして。それもそのはず、大阪駅も梅田駅も、同じ場所にあるのだから。

大阪だけの奇妙な風習

梅田にはJRの大阪駅の他に、阪神の梅田駅、阪急の梅田駅、地下鉄御堂筋線の梅田駅、地下鉄谷町線の東梅田駅、地下鉄四つ橋線の西梅田駅の6線がひしめき合う。

さらにJR東西線の北新地駅も徒歩圏内だから、7線が交差しているのだ。しかも大阪駅は東海道本線と大阪環状線、阪急の梅田駅には神戸本線、京都本線、宝塚本線が集中しているから、実質10線と言ってもいい。

でも、なぜJR以外は「大阪駅」と名乗らないのだろう。同じJRでも大阪駅とは別改札の北新地駅はともかく、他の私鉄や地下鉄は全て「梅田」と名乗っている。

大阪人にとっては普通のことだが、こんな奇妙な都市は大阪以外にはない。東京駅に入ってくる地下鉄は当然「東京駅」だし、名古屋駅との乗換駅はたとえ私鉄であっても「名鉄名古屋駅」「近鉄名古屋駅」と社名が付くとはいえ、やはり名古屋駅には変わりない。

他にあるとしたら神戸市営地下鉄のハーバーランド駅ぐらいだが、神戸駅は既に神戸市の中心駅としての機能を果たしていないからだろう(神戸市の中心駅は三ノ宮駅)。いずれにしても、関西の駅というのが面白い。JRの前身は言うまでもなく国鉄。親方日の丸に反抗するのが関西の土地柄なのか。

国鉄以外が「大阪駅」と名乗らなかった経緯

ではなぜ、私鉄や地下鉄は「大阪駅」と名乗らなかったのか。その秘密を探るためには明治初期まで遡らなければならない。

明治維新により西洋の文明を積極的に取り入れた明治政府は1872年(明治5年)、東京(新橋)―横浜間に日本初の鉄道を開通させた。その2年後の1874年(明治7年)には大阪―神戸間の鉄道が開通。しかし東京―横浜間に鉄道が開通する以前、大阪―神戸間に鉄道敷設の計画があったのだ。

1869年(明治2年)、アメリカの商社が大阪―神戸間に鉄道を敷設したいと申し入れた。大阪府にとっては渡りに船の話で、経済を活性化させるチャンスだ。当然この申し出を了承したが、明治政府からストップがかかった。鉄道敷設は政府主導で、と言い渡されたのである。この時、大阪府の明治政府に対する怨念が生まれた。

その5年後、明治政府によって大阪―神戸間が開通したが、大阪側ターミナルの駅名は当然のことながら「大阪駅」。ところが大阪の人々は大阪駅とは呼ばす「梅田ステンショ」と呼んだ。明らかに明治政府に対する反抗である。

ちなみに梅田とは、元々は「埋田」と書いた。沼地を埋めた田んぼ、という意味である。大阪駅が完成した頃は、今からは考えられないような寂しい水田地帯だった。大阪駅へ行くにはあぜ道を通らなければならなかったという。「埋田」では味気ないので「梅田」という洒落た漢字が当てられた。

モンロー主義の大阪市政

明治の中頃になって、私鉄が大阪市の中心部に進出しようとした。しかし大阪市はモンロー主義を唱え、大阪市中心部は市営交通により運営されるべき、という方針を採ったのである。そして大阪市は路面電車の市電を市内に張り巡らせるようになる。

どうしても大阪市中心部に乗り入れたい私鉄に対し、大阪市は「大阪駅」という呼称を許さなかった。よほど政府に対する怒りが強かったのだろう。

1906年(明治39年)には阪神電気鉄道が、1910年(明治43年)には箕面有馬電気軌道(現在の阪急電鉄)が梅田まで進出、駅名はいずれも「梅田駅」とした。

さらに1933年(昭和8年)には日本初の公営地下鉄である大阪市営地下鉄御堂筋線が開通。北側のターミナルはもちろん「梅田駅」と名乗った。こうして、地下鉄や私鉄の「梅田駅」に対し、国鉄の「大阪駅」は完全に孤立したのである。市や鉄道までがお上に逆らうという大阪人気質が、「梅田駅」という駅名に表れているようだ。

ちなみに、現在でも大阪人は「大阪駅に集合」とは言わない。「梅田に集合」と言う。それだけ「梅田」という地名が大阪人に根付いている。

夜の梅田。寂しい水田地帯だったかつての面影はない。道路の右側(北)がJRの大阪駅、左側(南)が阪神百貨店。道路の地下が阪神の梅田駅になっている

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