韓国高校野球の正体とは!?パワー野球の原点に迫る
韓国高校野球の全国大会は年何回?
日本の高校野球には春と夏の甲子園大会という、2つの全国大会があるのは周知の通り。正式には全国大会と認められているのは夏の甲子園だけだが(春のセンバツには「全国」が付かない)、他にも全国規模の大会としては明治神宮大会と国民体育大会がある。と言っても、権威と人気を考えれば事実上の全国大会は春夏の甲子園だ。
ところで、お隣の国・韓国の高校野球事情はどうなっているのだろうか。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で何度も対戦し、日本でも韓国野球が注目されているが、高校野球についてはほとんど知られていない。
日本では全国大会が事実上2回しかないのに対し、韓国ではなんと9回もあった。しかも、いずれも「全国」が付く。と言っても、全てが権威ある大会というわけではなく、
黄金獅子旗全国高校野球大会
鳳凰大旗全国高校野球大会
大統領杯全国高校野球大会
青龍旗全国高校野球選手権大会
が4大大会と呼ばれる。このうち全校に参加義務があるのは黄金獅子旗大会と鳳凰大旗大会だけで、それ以外は各校が参加を決める。普通は3、4の大会に出場する高校が多いようだ。
お国柄を反映したエリート教育
では、韓国には野球部がある高校は何校ぐらいあるのだろうか。答えはなんと50数校のみ。約4000校を数える日本の1/80である。夏の甲子園出場校が49校だから、それとほとんど変わらない。
50数校しかないのでは受け皿があまりにも少なすぎるが、それは当然だ。韓国では趣味で野球をやっている野球部員などいない。日本で言えば大阪桐蔭や日大三のような高校ばかりだ。いや、それすら生ぬるいと言っていい。
強豪校ともなると、専用グラウンドはもちろん室内練習場や野球部寮などプロ顔負けの豪華な施設が整い、プロ出身の監督が指導する。練習は朝から夜中近くまで1日中続く。「じゃあ授業はどうするの?」と思うだろうが、韓国ではスポーツ部員はほとんど授業を受けることはない。
「日本の受験戦争は、韓国に比べればかわいいもの」と言われるが、韓国では勉強する生徒は勉強ばかりして、スポーツ部員はスポーツばかりするという、徹底したエリート教育だ。
高校で野球をやりたければ、まず中学で実績を上げなければならない。いくら野球をやりたくても、高校が受け入れてくれなければハイそれまで。しかもその前に、小学校高学年の段階で、勉強をするかスポーツをするか、決めなくてはならないのだ。
日本では特待生が問題視され、「文武両道が理想」と言われるが、韓国にはそんな土壌はない。日本ではどんな強豪校でも、授業そっちのけで1日中練習に明け暮れる高校はないだろう。
衰退する韓国高校野球
近年の韓国における野球人気はWBC効果もあり好調のようだ。だが、高校野球人気は芳しくない。かつては大人気を博し、1971年に始まった鳳凰大旗大会は夏休みに行われるとあって、日本の甲子園大会に匹敵するほどの盛況だった。
しかし、1982年にプロ野球が発足すると高校野球の人気は次第に衰退した。鳳凰大旗大会ですら球場には閑古鳥が鳴き、平日に行われる他の大会では見る影もない。ちなみに韓国では高校野球でも興行の一環とみなされ、集客が見込まれる決勝戦や人気校同士のカードはナイトゲームで行われる。
少数精鋭主義の弊害
韓国のエリート教育にはやむを得ない部分もある。国土が狭く人口が少ないお国柄では、少数精鋭が最も効率がいい。韓国野球でいつも驚かされるのはパワーだが、それも徹底した練習で培われたものだろう。
その反面、子供の頃に門戸が閉ざされてしまうため、高校から急に伸びるような選手を育てられないのも事実だ。日本で言えば野茂英雄のように、無名校からスーパースターにのし上がる、という構図は見られない。
韓国高校野球の関係者は「韓日の高校野球で代表チーム同士が戦えば、韓国は互角以上の勝負ができる。だが、2番手以下のチームは実力がかなり下がる。日本では代表レベルのチームを5つは作れる」と嘆いている。トップレベルの選手は日本と互角だが、底辺の狭さが最大の問題だ、と自覚しているのだ。
韓国高校野球の改革
2011年、大胆な改革が行われた。「スポーツ部員も勉強すべき」という世論により黄金獅子旗、大統領杯、青龍旗および国体以外の全国大会は廃止された(鳳凰大旗は後に復活)。
そして導入されたのが週末リーグ制である。地域ごとに分けて休日に公式戦を行い、平日は授業を受けるという当たり前の制度がようやく実現したのだ。
だが、この制度には勉強などしたことがない選手は困惑し、多くの親も「勉強よりも野球の練習をして欲しい」と、日本では考えられないような希望を持っているようだ。しかし、このままでは野球しかできない歪な生徒を生むだけである。韓国高校野球は大きな転換期に差し掛かっていると言えよう。