戦争のヒーロー、撃墜王が生まれなくなってしまった理由
エリッヒ・ハルトマン352機(ドイツ)
グエン・バン・コク9機(ベトナム)
上の方は第二次世界大戦の撃墜王とそのスコアです。では次にあるのは?これはベトナム戦争の撃墜王のスコアなんです。何か違和感を覚えませんか?
第二次世界大戦のハルトマンの352機というのは特別にしても、当時のドイツ空軍には200機以上のスコアを持つパイロットは目白押し、第一次世界大戦のスーパースター、リヒトフォーヘンの80機にならぶエースは、数多く生まれています。日本でも50機を越えるパイロットは多くいたのです。それなのに、ベトナム戦争では9機!?なぜこのような数字になるのでしょうか?
大きな理由は、プロペラの戦闘機からジェット戦闘機に変わったことで、性能が大幅に上がったことと、何より価格も大幅に上昇したことにあります。第二次世界大戦の頃には、戦闘機や爆撃機何百機の大編隊による作戦が良くありましたが、今のジェット戦闘機では数機の編隊による戦闘がほとんどです。昔に比べ運用する数が極端に減っているんです。
戦闘機の価格というのは正確なデータがありませんが、一説によるとゼロ戦21型で当時21万円、機体が7万円、エンジン7万円、機銃セットで7万円、と言われ、おそらく今の物価感覚や価値観にあわせると一機数千万円、外国でも これに近いものと考えます。
今のジェット戦闘機は現用のF-15で100億円近く、ヨーロッパのものでも数十億円ライン、整備、燃料、弾薬など運用費もけた違いに高価になっています。つまり、費用が高すぎて前の戦争のように数を持てないのです。
前の大戦では、日本でもゼロ戦は一万機以上生産されるなど、主要国は一万機を超える保有や生産が行われていましたが、現在ではアメリカ、ロシア、中国が数千機の戦闘機を持っていますが、ほとんどの国は数百機程度の保有で、昔と比べると一桁保有数が減っているのです。
というわけで、高価で高性能になったおかげで、今では互いに数機程度の編隊による戦闘がほとんど、そもそも敵戦闘機との会敵回数が前の大戦に比べると極端に減ったわけです。
その上、第二次世界大戦の頃の空中戦というのは300~600kmでおこなわれていたのが、ジェット化したことで800km~くらいに増加(実際空中戦で音速を超えてすることはまれです)、旋回半径も大きくなって、一度すれ違うと何キロも離れてしまい、昔のようなくるくる回るイメージのドッグファイトも難しくなってきました。その間には燃料も激しく消耗します。
バカにならない装備
米軍機搭載バルカン砲の20mm機関砲弾は機種によって違いますが、500~1000発積んで、わずか5~10秒で撃ち尽くします。弾の価格というのはピンキリですが、フルに装弾すると100万を超える費用がかかるものと思われます。
比較にもなりませんが、海上自衛隊で使っている近接火器防御システムCIWS20mmバルカン砲では、高価なタングステンを弾芯に使ったAPDS弾は一発7万円!弾倉に989発入るといいますから、性能からすると20秒で7000万円分ほどの弾を撃ち尽くすことになります。
ちなみに1996年米軍との合同演習リムパックに参加した「ゆうぎり」が、標的をえい航していたアメリカ海軍のA-6イントルーダー攻撃機を誤って撃墜してしまったことがあります。よく使われる対空ミサイルのサイドワインダーはタイプによって違いますが概ね1000万から2000万、というわけでかなりコストがかかることになります。
2機の戦闘機が空中戦をやり、互いに弾やミサイルを撃ち尽くすと、2機だけで億の単位になりかねません。これが数機の編隊対編隊でやったとすると・・・。費用を考えるだけで背筋が寒くなります。
まあ 互いに機体が数十億から上の機体を使っているわけですから、それだけ高価なミサイルや弾薬を消耗したとしても、一機でも落とせば元は取れる、ということなんでしょうが・・・。
これではおいそれと空中戦はできません。どんな優秀なパイロットでも生涯数機のスコアがせいぜいかもしれません。「撃墜王」というとヒーローとかロマンを感じてしまいすが、過去のものになってしまったみたいですね。