コンプレックスの多い人間ほど多才になるって本当ですか?~前編~
コンプレックスの多い人間ほど多才だと聞きます。コンプレックスを乗り越えるために努力するからでしょうか。たとえそのコンプレックスが克服できなくても、その過程で何かを得るのでしょう。
人間できないことが多いほどできた時は嬉しく、その喜びを一度知ってしまったら、努力も楽しくなるのかもしれません。その結果どんどん上へ上へと進んでいくのです。つまり、やり遂げる喜びを知っているほど上に行けるのです。そして、それを始める時期は生きている限り、思い立ったが吉日です。
コンプレックスの多い私が就職するまで
かくいう私もコンプレックスの塊で、器用貧乏ですが、何をやっても中途半端でした。私が目覚めたのは30過ぎてからです。それまで周囲からは「運だけで生きている」なんてよく言われたものです。
ちょうどその時、前の夫が亡くなって仕事に就かなくてはならなくなりました。早速ハローワークに行きましたが、私の職歴はバブル時代に秘書として働き、その後専業主婦として10年ものブランク有で現在に至るのです。
就活では、バブル時代の本社秘書室業務は何の役にも立ちませんでした。秘書室勤務ですと、ハローワークの分類は「秘書」という総合職となり、事務職経験無しになるのだそうです。
私は秘書検1級を持っていて、大手商社の秘書室で副社長付きだったというのに、10年のブランクがあれば経験無しも同然だと言うのです。秘書の資格は直近実務が無い以上役に立たないから、何か他の資格を取るようにとハローワークでは言われました。
そこで人事・総務では、社会保険・労務管理をするので、社労士の資格を取得することにしました。私が勉強を始めたのは4月末、社労士試験は8月第3週日曜日だと言うので、少しでも早く資格を取得しようと大学受験の時より猛勉強しました。そして努力が実り見事合格できたのです。
その時の喜びは普通の人の10倍、いえ、それ以上だったかもしれません。これで就職できると能天気な私は余裕で就職活動を再開しました。無知から来る能天気な自信は恐ろしいものです。
友人の勧めで派遣会社に登録すると、衝撃の事実が判明しました。企業人事の意見は、資格よりも実務だというのです。下手に社労士の資格を持っていると資格手当が必要になるのに、実務経験が乏しいでは戦力外ということでした。つまり社労士の資格が就職の邪魔をしたのです。
どの企業でも、「社労士事務所に就職した方がいい」と言われました。私は企業に就職したくて勉強したのに意味がありません。私はさらに意地になりました。
社労士事務所は資格取得者をあまり雇いたがらないと聞きました。大都市ではいざ知らず、地方では個人事務所が多いので、資格者を雇うと顧客を奪って独立されたら困るというのです。これはある事務所の所長さんにはっきり言われたのです。ショックでした。でもさらに意地になりました。
資格を取得して即仕事に結びつくのは、司法試験に合格して弁護士事務所に勤めるか、検事や裁判官として国家公務員になるしかないと思ったのです。周囲のだれもが無謀だと言われました。合格すれば就職が約束されていたのです。
今は司法試験に合格しても就職できない弁護士が増えていると聞きますが、その頃はまだ旧司法試験終了前で、旧司法試験終了まで2年の猶予がありました。つまり世の中は新司法試験制度に移行しているのですから、受験者数が減少し倍率が低くなったのです。私にも可能性が生まれたように思いました。
私は昔から物事を最後まで続けられない飽きっぽい人だったのですが、社労士試験を合格した時の達成感を味わってから、達成マニアとでも言うように、もう意地になって旧司法試験を目指しました。周りが言うように無謀だとは思いますが、たとえ合格できなくても、雑学としてかじっただけでも何も知らないより生きていく知恵になると思いました。
旧司法試験最後の年に滑り込みで合格しました。お金もかかりましたが、おかげで今では自分の自信になっています。自分の新たな才能を見つけた気がします。弁護士・社労士として弁護士事務所に就職できました。
コンプレックスが生む努力
私の周囲は「器用貧乏」であることを何でも器用にこなすと誉めるのではなく、「何事も中途半端」とか、器用にこなせているのは「ただ運がいいだけで地に足がついていない」と言い続けました。それに対し、反発することも無く楽天的に諦めて生きてきましたが、大きなコンプレックスになっていました。
そういう人間が「最後までやり遂げる喜び」を知ると、やり遂げる度に次へ次へと止められなくなってしまうのです。私は資格マニアになりましたが、他のことでやり遂げた人は様々な新しいことにチャレンジするでしょう。つまり多才になるのです。