裁判官も夫婦関係には感情的?おもしろ裁判例。
暴力夫の裁判離婚
さて、おもしろ裁判例というと不謹慎ではありますが、「興味深い」という意味にとっていただければ幸いです。
今から紹介するのは、ひどい夫が離婚を請求されて裁判になったものなのですが、ちょっと両極端な結果に終わったものです。どちらも、妻に暴力を振るうような、言ってしまえば身勝手な夫のお話です。ちなみにどちらの裁判も同じ裁判官が担当しております。
これからも青い鳥を探して夫婦生活を…
ある夫婦がおりました。妻は専業主婦。夫は自動車の整備をして働いていました。しかし、「職人だから」と言っては職人に失礼なのかもしれませんが、こだわりのある頑固者。仕事には真面目なものの、神経質で口うるさい夫でありました。
それだけならまだしも、日ごろの鬱憤を妻に対する暴言や暴力で晴らしていたのかもしれません。気絶するまで殴って水をかけるような執拗な暴力と、精神を追いつめ、自殺を図らせるほどの罵りを受けてきたと妻はいいます。
そんな目に遭わされてきた妻は、子供の自立を機に離婚を決意しました。もう責め立てられ罵られ、暴力に怯えて暮らし続けるのは嫌だ。自分の残りの人生は穏やかに暮らしたい、と。
しかし、判決は妻には酷く、夫には救いのあるものでした。裁判官は夫の神経質さなど、性格に問題のあったことは認めつつも、そんな夫の振る舞いには妻にも原因があったのだとして、離婚を認めませんでした。
判決文の中には、裁判に出てくる夫の姿が惨めで可哀想だ、といった話も出ています。そして極め付けには夫婦二人で頑張ってこれから幸せの青い鳥を探してください、といったフレーズ。
さて、そんな綺麗な話で締められる程度の些細なすれ違いしか無かったのかは疑問の残るところです。裁判官にも、この事件の、夫の妻に対する態度に身に覚えがあったのかもしれませんね。
踏んだり蹴ったりじゃないか!
かと思えば、妻に同情的な判決も出されています。実際、青い鳥判決の夫よりひどい夫だったから、ということもあるでしょう。
こちらの夫は、仕事がうまくいき始めてから、振る舞いがひどくなったのだということです。酒に溺れ、妻に暴力を振るうようになりました。外に女を作り、不倫相手と子供を作り、その時点で家庭は崩壊していると言ってよいでしょう。
しかし、そのように家庭の外で好き勝手をしても飽きたらず、家族への暴力は振るい続けました。妻は、子供を連れて家の外、他人の家の軒先で一夜を明かしたこともあると言います。
これには裁判官も妻に同情せざるを得ません。青い鳥判決の夫のように「性格に難はあるものの真面目に働いて家族を支えてきた勤勉な夫」「職人気質」と善意的に解釈する余地など、もはやありません。
流石に「同じ男として許せない」という気持ちもあったのでしょう。今度の判決文には、これでは妻は踏んだり蹴ったりではないか、というフレーズが入っておりました。
判決の分かれ目は?
どちらも同じ裁判官の出した判決であるにしては、多少極端に思えますね。しかし、踏んだり蹴ったり判決のほうは、家庭を持っているにも関わらず、それをないがしろにしたうえでの、暴力。
対して、青い鳥判決の方は、色々と問題はあるにしても、妻子を支えるのをやめなかった、という点が評価されたのでしょうか。自分が手に入れた、たった一つの家庭を大事にする姿勢はやはり大切なのでしょうね。