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二刀流・大谷にDH制の罠!?意外と知られていないDHルール

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2013.07.28

ピッチャー以外の選手にDHを使う?

今年のプロ野球で最大の話題といえば、北海道日本ハム・ファイターズに入団したスーパールーキーの大谷翔平だろう。投げてはMAX160km/h、打っては高校通算56本塁打と、投げてよし、打ってよしの二刀流として期待を集めている。テレビ番組で、ある芸人がこんなことを言っていた。

「大谷がピッチャーで四番打者となって、セカンドあたりにDHを使うようになったらオモロいのになあ」

要するに、ピッチャーの代わりにDHを使うのではなくて、セカンドを守備専門にしてDHを使う、というわけだ。だが残念ながら、ルール上この作戦は使えない。なぜか?それを説明する前に、DH制度が誕生したいきさつを見てみよう。

最初は邪道視されたDH制も、現在では世界の主流

DHとはdesignated hitterの略で、日本語では指名打者と言うのは周知の通り。DH制を最初に採用したのは1972年(昭和47年)、メジャーリーグ(MLB)のアメリカン・リーグだ。

採用された理由は、打力に乏しい投手の代わりに打撃専門の選手を起用すると、切れ目のない強力打線が組めるし、投手も打順が回ってくるたびに代打を送る必要がないので無駄な投手交代がなくなり、面白い野球をファンに見せることができる、というものだ。

日本プロ野球(NPB)では、1975年(昭和50年)に、人気不振に陥っていたパシフィック・リーグで採用された。DH制を人気回復の起爆剤にしようとしたわけだ。DH制度が登場した当初は

「野球の伝統を壊す」
「代打か続投か?という作戦の醍醐味が失われる」
「投手が快打を飛ばす、という意外性がなくなる」
「打つだけで守れない、走れないアンバランスな選手を生む」

などの批判が相次いだ。だが、明らかに興行優先の理由からプロで生まれたDH制が、むしろアマチュアで広まったのは面白い。世界大会がなかったプロに対し、アマ野球ではオリンピックを含め世界大会が盛んに行われ、DH制をいち早く採用した結果、世界中にDH制が広まったのである。

現在では世界的に見てDH制が完全に主流と言える。野球世界一を決めるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や国際野球連盟(IBAF)が主催するシニアレベルの世界大会は全てDH制、プロでもMLBのナショナル・リーグとNPBのセントラル・リーグ以外、世界各国ほとんどのリーグでDH制を採用している。

日本でも各地域の独立リーグや、アマチュアでも社会人野球は全てDH制であり、大学野球ですら東京六大学野球、関西学生野球、明治神宮大会以外の各リーグや大会ではDH制だ。ナ・リーグやセ・リーグ、高校野球などでは今後も9人制の野球が存続するだろうが、DH制は完全に定着したと言えるだろう。

プロ野球人ですら知らないDH制ルール!?

だが、完全に定着した割には、冒頭の芸人のように意外とDH制ルールは知られていない。ある野球コラムでは「DHの選手は、普通は投手の代わりに打席に立つ」と書かれていた。

公認野球規則6.10(b)(1)には、こう書かれている。「指名打者とは、投手の代わりに打つ打者」と。従って「“普通は”投手の代わりに打席に立つ」のではなく「“必ず” 投手の代わりに打席に立つ」のが指名打者だ。つまり、セカンドの代わりにDHの選手が打つ、ということは有り得ない。

「でもソフトボールの試合で、ピッチャー以外の選手の代わりにDHが打っているのを見たことがあるぞ」という人もいるだろう。それはDH(指名打者)ではなく、DP(指名選手)だ。DPとはdesignated playerの略で、DHと違って投手以外のポジションでも、打撃専門の選手を置くことができる制度である。

それに対してDHとは投手の代わりでしか打つことができない選手であり、最初はDHを使用していても、投手が途中で他のポジションに就けば、DHは消滅してしまうのだ。

例えばDHを使用した試合で大谷が先発登板して、試合途中でライトに入ったらその時点でDHは消滅し、大谷はDHの打順に入ることになる。代わった投手はライトの打順に入るわけだ。

もちろん、他のポジションの選手が投手になった場合でもDHは消滅する。そのケースでは、空いたポジションに就いた選手がDHの打順に入る。その場合、それまでDHだった選手や投手だった選手が空いたポジションに入ってもよい。

また、DHの選手が途中で守備に就いた場合でもDHは消滅し、投手はDHの代わりに退いた選手の打順に組み込まれる(2人以上の交代が行われた場合は、監督が打順を指定する)。

DHを一つのポジションと思っている人がいるが、それは誤りであり、あくまでも投手の代わりに打つ打撃専門の選手だから、例えばDHとライトを入れ替えて、ライトの選手をDHにする、なんてことはできないのである(練習試合等では、申し合わせでそういう選手入れ替えを認めることもある)。

実にややこしいDHルールだが、プロ野球人でも把握していない人が多いのだから、ファンが混乱するのも無理はない。パ・リーグではそんなことはもうほとんどないが、セ・リーグでは未だにDHルールを認識していない人がいる。

2011年(平成23年)のセ・パ交流戦で、広島東洋カープの野村謙二郎監督が「当て馬(偵察メンバー)」として投手の今村猛をDHで起用したことがある。しかし、公認野球規則6.10(b)(2)には「指名打者は相手先発投手に対し、その投手が交代しない限り、1打席は完了しなくてはならない」と書かれており、要するに「当て馬」は使えないというわけだ。

やむなく今村は1打席だけ立って、あとは退いた。現在では交流戦は予告先発なので「当て馬」を使う必要はなくなったが、予告先発のない日本シリーズでは同様の勘違いが起こらないとも限らない。

「四番・ピッチャー・大谷」は不可能か?

もちろん、DH制のルールでもDHを使わなくてもよい。従って、パ・リーグの試合で「四番・ピッチャー・大谷」としてもいいのだが、現実にはそんなことはしないだろう。なぜなら、大谷から投手が代われば、後の投手も打席に立たなければならないからだ。

大谷がいつでも完投できるとは限らず、DHを使わないリスクはあまりにも大きすぎる。とすると、「四番・ピッチャー・大谷」は夢なのだろうか。DHが投手以外の選手にでも起用できれば問題ないのだが。

だが、DH制のないセ・リーグ本拠地球場での交流戦や日本シリーズなら充分に有り得る。この原稿を書いている時点では実現したかどうかは不明だが、交流戦中に「五番・ピッチャー・大谷」の構想はあるようだ。

四番打者でないのは残念だが、高卒ルーキーで五番に座るというだけでも凄いことである。高卒新人で31ホーマーを放った清原和博でさえ、シーズン当初は八番打者だったのだ。

しかし大谷は、投手をやりつつ既に野手として五番打者を経験している。レベルが低かった時代の野球ならいざ知らず、高度に発達した現代野球ではほとんど奇跡に近い出来事だろう。

大谷がこのまま成長し、もし日本ハムが日本シリーズに進出すれば(今のところ、ちょっとしんどいが)、日本一を決める舞台で「四番・ピッチャー・大谷」なんてコールされる場面を想像するだけで、鳥肌が立ってくる。

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