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紅葉のメカニズム 美しさに隠された自然を生き抜く厳しさ

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日本の四季は世界でも稀に見るほど彩りが豊かである。春は暖かくて夏は暑く、そして秋は涼しく冬は寒い。

とりわけ秋になると、日本の自然が見せる表情は他の季節のそれよりもより複雑で美しい色合いを見せ、人々を楽しませてくれる。

とりわけ、「春の桜」と「秋の紅葉」は古来より歌に詠まれ愛されてきた季節でもある。日本人特有の美的センスは色合い豊かな四季がバックグランドになっていることは間違いないであろう。

春の桜は、命の息吹とこれからやってくる眩しくてエネルギッシュな季節に心を躍らせる。若々しくて輝かしい未来を満開の桜に感じるのだ。

秋の椛や楓や銀杏の葉の移ろいには、暖かい季節との惜別と寒くて厳しい冬への覚悟を思う。老いてなお美しい紅葉は、枯れゆくものへの尊敬と畏怖の念を想起させる。

実は「紅葉」という現象は、科学的に見ると「死のメカニズム」でもあるのだ。樹木が冬を生き抜くための自衛手段として葉を落とすのだ。

寿命がきて枯れるのではない。樹木自ら葉の命を絶つのである。そこには人智を超えた厳しい自然のメカニズムがある。

気温がある程度下がると、木の幹は葉への養分の供給をストップしてしまう。夏の太陽で蓄えた養分を来るべき冬にむけてストックするのだ。

日照時間が短くなれば、葉からの光合成は効率が悪くなる。光合成の必要がなければ、葉は無用になるのだ。

養分の供給をストップされてしまった葉はその瑞々しい緑色から赤や黄色、茶へと変色して枯れていく。

やがて葉はその当初の役目を終えて枝から離れ散っていく。地表に散り降りた葉は微生物に分解され土中の養分となる。散ってもなお養分として貢献しているのだ。

人は、咲き誇る桜の花にこれからの輝かしい未来を想像し、枯れてゆく秋の葉には、役目を全うして去りゆくものの儚さ、悲しさ、そして生命の尊さを見る。それは凛として美しい自然の摂理だ。

春の桜は「生命の力強さ」「若さ」を、秋の紅葉は「美しい死に様」「美しく老いること」を我々人間に教えてくれる。

「生と死」、「若さと老い」そこには生命の尊い美しさがある。自然を愛でて感じるのは、花の色の美しさや、秋の葉の色の移ろいではない。

「生の美しさ」、「死の美しさ」を自然から畏くも賜っていることに気づき、図らずも心を動かされるのだ。

紅葉は見ているだけでも美しさに心を奪われる。しかし、その美しさには、厳しい自然のメカニズムと、日本人特有の「生と死」に対する美感といった深遠な思想が隠されているのだ。

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