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Basecampの創設者デビッド・ハイネマイヤー・ハンソンが語る「MBAアンラーニングのススメ」

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2015.08.19

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ビジネスプランに値段が付き、ドットコム系の新しい会社が次々と株式公開していった、ITバブルの1999年に37シグナルズ(現Basecamp.com)は、自己資金のみで設立。

ベンチャーキャピタルを排除し、現在も株式未公開の37シグナルズのパートナー、Ruby on Railの開発者、デビッド・ハイネマイヤー・ハンソンが、不況下で新社会人となるスタンフォード大学の学生に説くアンラーニングとはいかなるものでしょう。

そもそもアンラーニングを知らない人の為に簡単に説明を用意しました。

アンラーニングとは?

アンラーニングとは、学習した事を意識的に忘れてしまい、学びなおす勉強法の事を指します。めまぐるしく状況が変化するビジネスの世界やネット社会の今様々な企業で重要視されている学習方法のひとつである。

下記より動画の内容になります。

不況は絶好のチャンス

まず、手短にわたしの経歴ですが、デンマーク出身です。37シグナルズというソフトウェア会社のパートナーをしています。

37シグナルズはシンプルなコラボレーションツールを制作する会社で、一般的にはWEB2.0*1に分類されているようですが、創設以来利益を上げています。(会場笑、拍手)

当初、37シグナルズは「はみ出し者」と思われていたようですが、その辺りからお話をしていくつもりです。また、技術面では、無料でオープンソースのRuby on Railsを開発者ですが、今日はビジネス面の話をいたします。

現在、ニュースのヘッドラインで見る限り最悪の状態ですね。特に大学をこれから卒業する人たちにとっては、経済の悪化、失業率が最悪の状況で就職に関する懸念が尽きないのではないでしょうか。

しかし、現状はそれほど悪くもないのではないか、もしかしたら、この状況はあなた方の人生で起こった、いちばん良いことなのではないかと思うのです。(会場ざわめき)

今大学を卒業するということは、実はチャンスを掴むには最良の時機なのです。

ちょっとしたメリットとしては、ばかげた履歴書なんてものを書かなくて済む。ほとんど職歴のない新卒者がよくすることですが、(特筆するほどの職歴がないのに)仕事に就くために、大げさな表現でアピールすることは必要ないですね。

就職のための履歴書を作成するというよりは、もっと広い意味でのビジネスプランを作ることを考えましょう。

今が社会に出る最良のときだというのは、要するに(在学中、教授の印象を良くすることを書くために心を刻むのと同様に)誰かの心象を良くすることを語らなくてもよい。

わたしは、コペンハーゲン・ビジネススクールを卒業当時には、それが求職者として「するべきこと」だと考えていました。

ところが、ビジネスの世界に身を置いてからは、教授(権威のある人)を喜ばせるのが自分の目的ではないと悟りました。

現在大切なこと、そして、社会に出る最良のときだというのは、コンサル会社などでごく普通の退屈な中間管理職に就くのは無理、だから自ら出て行って何かをしなければならない。

世界に自分のための、小さな凹みを作らなければいけません。安全な選択肢が無い替わり、世の中をあっと言わせるようなこと成し遂げるチャンスがあるのです。

自分でビジネスを起ち上げるもよし、自分のしたい仕事をするもよし、でも、アクセンチュアのコンサルになるなど考えないのがよろしいでしょう。(会場ざわめき)

それでは、世界に小さな凹みを作るにはどうすれば良いか。チャンスがあっても、実際ビジネスを起ち上げることは難しい。

即成功する、必ず成功するようなノウハウはありません。即金持ちになるスキームもありません。

いづれにせよ、まず言っておきたいのは、MBAアンラーニングです。ここで言うMBAはビジネススクールで勉強するマネージメント理論云々のことです。

自分が卒業して気づいたのですが、96.7%は無駄でした。わたしが、今していることとは全く関連のない、そして、影響もないことを勉強していました。

実のところ、3年間理論浸けというダメージのある頭で卒業しましたが、製品を創る、お客様に喜んでもらって、ビジネスとしての利益を得ることについては、役に立ちませんでした。

(ポーターの)ファイブフォースについて20ページのレポートを書いたことがあるかなんて、お客様に聞かれることは、決してないのです。

マネージメント理論は2~3人のスタートアップの小さな組織にあてはまるようには作られていません。

IBMのちょっとした統括部門でも任されて、フロリダあたりでお遊び半分、仕事半分の会議の席で同僚を感心させるために使えるかもしれませんね。でも、お客様にとって、理論なんてどうでも良いことでしょう。

このことを踏まえて言うと、まず、ビジネススクールで勉強したことから脱却しなければいけません。そして、自分のライティングを見直すことです。

ビジネススクールの卒業者のライティングは最低です。ビジネススクールの学生レポートは、教えられたことを理解していること、そしてある程度の量を書くことで教授を喜ばせることが目的だからです。

20ページのレポート、何ワード使うかの要求があって、それを満足することで採点されるのです。

それが、ビジネススクールで優等生になるためのアプローチです。1ページに必要なことだけを凝縮して書いたとしても、学校ではボーナスポイントがありませんが、実社会ではあります。その違いを理解してください。

MBA的なたわごとに毒されるのがどんなにひどいか、例を紹介しましょう。ドミノピザのCEOが書いたものです。

“The weakness in our value chain with the customer was really in our core product”
「弊社の顧客を含めたバリューチェーンの弱点は実は、弊社のメインの製品にある」(教授の笑い声)

えっ?どんな意味ですかって?人間の言葉に翻訳してみようと試みたのが、こちらです。(会場笑)

“Let’s be honest, our pizza used to suck. I’m sorry. I swear the new ones will be better”
「正直にいうと、今まで弊社のピザは最低でした。ごめんなさい。新しく出すピザはもっとマシだと祈ります」(会場笑)

わたしが翻訳した文面が、スモールビジネスで使う言葉です。(会場笑)他の誰でもない、お客様に向けた言葉です。

37シグナルズが、競合会社より優れている点は、まともな人間の言語を使って書けるということです。人間に向かって話すこと、これはとても大切なことです。

大げさな言葉を使ったからといって、感心してくれるお客様はいませんから。そして、小難しい言葉をひけらかさない、これがMBAアンラーニングのプロセスでもあります。

計画は推測にすぎない、それも有害な

みなさんは、長期計画、戦略的計画、戦術的計画といろいろな計画について勉強しておられるでしょうが、スタートアップに5年分の成長計画があるとは奇妙なものだと思いませんか。

まだ何もしていないのに、5年先のことがどうしてわかりますか?わからないでしょう。既に軌道に乗ったビジネスであれば、計画は可能でしょう。

例えば、イリノイ州の北部第5セクターのマクドナルドのチェーンを展開しているのであれば、第3年度に何個のハンバーガーを調達しなければならないかはわかるでしょう。

自分のビジネスを起ち上げて、新しいことをする、新しい業界に参入する、または既存の業界でまったく違うことをするとしたら、何が起こるか想像もできないでしょう。

早い時期にそれに気づくべきです。計画は推測であるだけではなく、有害な推測でもあるからです。

5年先の心配をするのは、時間の無駄です。むしろ、明日の心配をするべきです。37シグナルズは、設立して10年(スピーチ当時)になりますが、わたしたちが気に掛けるのは2週間後です。

ときどきクレージーになりますが、それでも2か月先です。来年がどうなっているかは、今日わたしたちがしていることに、何のインパクトもないのです。

ずっと先のことを考えるのは、時間の無駄であり、本来すべきことに傾けるエネルギーを浪費してしまうのです。気にかけなければいけないのは、今日、明日そして来週のことです。

スモールビジネスに於いて決定したことは、非常に一時的なものです。わたしたちはIntelとは違います。

インドに5年後に完成する工場を建設するのでもありません。こういうビジネスをしている人たちにとっては、一時的な決定というものはありません。

10億ドルもの資金をかけるのですから、マーケットやもろもろの事に対して、正しい判断をしなければなりません。

自分のアイデア、血と汗で自分のビジネスを起こすのであれば、決定事項はほとんどの場合、一時的です。

最も大切なことは、スタートすることです。何かを決めたのなら、決めた内容はともかく、すぐに始めることが重要です。

ベンチャー・キャピタルは時限爆弾

みなさんは、きっとわたしが話したことはすべて無視するでしょうし、MBAアンラーニングなんてしないでしょうね。(会場笑)まあ、その前提で進めますが、みなさんに救いになることをお話しましょう。(会場笑)

ベンチャー・キャピタルは時限爆弾のようなものです。(会場笑)わたしの経験から話します。ご存知の通り、わたしはソフトウエアの開発をします。

インドに工場を建てたりはしません。10億ドル費やすこともありませんし、インフラにお金をかける必要もありません。わたしの話は、ソフトウエアの開発やWeb 2.0などの業界のことです。

この業界で、ベンチャー・キャピタルは時限爆弾で、スタートの時点で資金を受け入れることは、あなたがたのビジネスにとって最も有害です。

理由を申し上げましょう。第一に、良いアイデアのような気がすること。「資金を受けなければ、お金がないし、3人しかいない小さな会社で、どうやって暮らしていこうか」となります。

確かにそうですね。ベンチャーキャピタルを入れれば、100万ドル単位のお金が入ってくる訳ですから、明日の心配をしなくて済みます。

銀行口座には500万ドルのお金がある。さらに、自分で調達したお金でもない。(会場笑)あなたは、他人のお金を使って相当期間暮らしていけることになります。

そうして、あなたは人生の5年ほどを無駄に過ごすことになります。5年の月日を上手くいかないことに費やし、その結果、時限爆弾が爆発する。

これは、来週支払わなければならない家賃の心配をするよりも悪いとわたしは思います。

あなたがたのアイデアが利益を生むものであることを今すぐに証明して、自立したビジネスを興すか、5年先に時限爆弾が爆発し、ベンチャー・キャピタルに会社を乗っ取られ、5年間の努力が雲散霧消するかの選択です。

後者は最悪のシナリオのように見えますが、みなさんが想像する以上によくある事象です。Web 2.0の大勢の企業家と話したことがありますが、そのうちの大多数がベンチャー・キャピタルを受け入れています。

その人たち全員が、今もう一度やり直すことができたら、ベンチャーキャピタルなしでやるだろうといっています。

あまり知られていませんが、一旦資金を受けると中毒になるのです。(麻薬中毒者の真似をしながら)「また、資金をいれないと。今すぐ。次の段階に行くのには、また資金が。資金が」となります。

あなたの中毒症状が出てくると、出資は弱腰になって「最初からやめといたほうが良かったかもしれない。悪いけど」(と資金を引き揚げてしまう)

ベンチャーキャピタルには警鐘を鳴らしておきます。最大の問題は、他人のお金を使うということです。

他人のお金だと、使い道に無頓着になりますが、自分のお金なら、かなり慎重になる。37シグナルで人を雇うとしたら、わたしは自分のお金を使うことになります。

つまり、年末にはわたしの株主配当金の金額が減るわけです。どうでもいい人を雇うと思いますか。ノー。プレスを感心させるような人材を選びますか?ノー。そんなことに、12万ドルも費やせませんよ。

自分の資金でビジネスを始めると、なるべく多く、なるべく早く利益を生む努力をします。売れる製品に適正な価格設定をして、利益を出さなければならない状況に追い込まれて最良の結果が出るのです。

限られた資金に制約があるのはビジネスにとって良いことです。最悪は束縛するものがないこと。最初から潤沢は資金があると、資金が続く間中、しょうもないことを続けていく。

そして、しょうもないことに時間を費やしても危機感すらない。自分の資金で儲けを出して行かなければならないという緊迫感こそが、起業家にとって最も強力な推進力になるのです。

ベンチャーキャピタルは、ちょっとした資金を投入することから始めます。ちょっとした踏み台にとか、メジャーリーグへ繋げる位とか、10億ドルのビジネスにからみたら微々たる額だと言ってアプローチしてきます。

ところが、すべてがそのパイプラインに絡めとられるようになっています。ベンチャーキャピタルは、年間のキャッシュフローが100万ドル程度のビジネスには興味を示しません。

初期投資が、5倍、10倍、15倍ほどになるビジネスを求めています。

今100万ドルあるとします。この資金で、年商数百万ドルのビジネスを起ち上げれば御の字ですね。それでは、この資金で10億ドルのビジネスに繋げるのはどうでしょう。

これは、カジノで持ち金全部をスロットマシーンに投入するようなもの。数百万ドルのビジネスで成功するのは、ポーカーのテーブルへ行くようなもの。

運に左右されるでしょうが、勝つチャンスもあります。少なくとも、宝くじを買ったり、グーグルの神様に気に入られて高額で買い取ってもらう確率よりは高い。スモールビジネスを始めるほうが、勝算があるといえるでしょう。

実際、ビッグビジネスはスモールビジネスから始まっています。ただし、YouTubeなど、無の状態から短期間で驚異的な成長を遂げる例があったりするので、ベンチャーキャピタリストは興奮しますね。

勿論、少額の投資で巨額のリターンがある案件があれば、乗らない手はないでしょう。彼らは、20社投資して、1社成功すればよいのです。

あとの19社は時限装置を作動させて、いままでしてきたことを水の泡にしてしまえばよいのです。そして、その会社を興した人たちは世界に小さな凹みをつくれずに終わるのです。

ワーカホリックは自慢にならない

悲劇的な勘違いは、ビジネスを起ち上げたらワーカホリックになって、週に60~100時間働くことでしか成功できないと思い込むことです。とんでもない。

わたしたちは、そんなに働きませんでした。37シグナルのメインの商品、Basecampはわたしがビジネススクール在学中に週10時間を費やして6か月で仕上げました。

この商品は現在も数百万ドルの収益を上げています。週に80時間働いたところで、最も大切なことに費やす時間はせいぜいその内の5~10時間程度でしょう。

それ以外は、首なしの鶏が走り回っているようなもの(ただの空回り)です。

ワーカホリックは成功を保証するものでもなければ、成功のために必要なものでもありません。ハードワークでなければいけないというのは、勘違いです。

人手に頼って造る工業製品ならいざ知らず、ソフトウエアの世界では労働力は必要ありません。必要なのは良いアイデア。

良いアイデアは、充分に休息した頭脳から生まれるのです。睡眠時間が少ないことを自慢するのは、無能だから寝ずに働かないといけないと露呈しているだけです。

Basecampを開発したとき、わたしは週に10時間しか働かないと決めましたが、マイクロソフトやグーグルを出し抜くつもりはありませんでした。

プログラミングの時間は、何人ものプログラマーのいる会社よりはずっと少ないので、真正面から競争することもないのです。そんなことは必要ないし、したところで、徒労に終わるだけです。

プログラミングの時間に制限があるのなら、時間内でできることを探します。世界を変えるような製品は作れませんが、限られた時間内に仕上げるのが可能で、既存の製品を全く違うものを模索してできたのが、シンプルですべてが揃ったBasecampです。

ユーザーの感想は、シンプルさが好き・簡単に始められる・300ページのマニュアルを読まなくて良い・トレーニングが不要などです。

成功するには時間がかかる

一晩で成功したように見えるビジネスも、実はずっと前から地道な努力を続けているのです。

それは、まさに37シグナルズのことであり、Basecampのことでもあるのです。

ある時、爆発的に知名度が上がったので、一晩で成功したように見えたのでしょうが、始めたのは10年前です。会社が良いものを生み出すには時間がかかるのです。

5年、10年、自分が維持することができる適切なペースでビジネスを構築していって、オーナーとして落ち着くのと、時限装置を背負って成功を急ぐ、どちらを選びますか。

質疑応答

37シグナルズ以前

教授 : デビッド、最初に始められたのは、ゲームサイトだったと記憶しているのですが。

デビッド : その通りです。ゲームサイトを通してプログラミングを学びました。

教授 : ハードコアなゲーマーでしたか?

デビッド : はい、かなりの。始めはコンピュータゲームのレビューを雑誌に書いていたのですが、他人が作ったものをけなすのが仕事だったので、あまり好きではありませんでした。

1997年にインターネットを知って、ここが自分の場所だと思いゲームサイトを始めました。そのために、プログラミングを独学で習得しました。

教授 : ゲームサイトはあなたにとって、ビジネスでしたか、それともパッション(情熱)でしたか。

デビッド : 当時は無知だったので、ベンチャーキャピタルが付いていました。当時はドットコムの時代で、インキュベータで月給をもらってレビューを書いていましたが、実際出資者がどうやって儲けていたかは知りません。

その時は、他人のお金だし、ゲームをしてレビューを書いて、プログラミングの勉強もできて、快適でした。

教授 : その時の経験が今のあなたのものの見方に影響していますか。

デビッド : もちろんです。こんな快適な状態が永久に続くわけがないと知りました。実際18か月で終わりました。「全然お金が儲かっていない。資金が尽きてきたから、君はクビ」となるのが明白だったので、自分から辞めました。

その後、ソフトウエアの会社に就職しましたが、そこでの7か月の経験は、人生で最良の教育を受けました。何故なら、この会社は最悪のソフトウエア会社だったからです。(会場笑)

その会社は教科書にあるようなすべての間違いをしていたのですが、反面教師という意味で良い勉強でした。

教授 : ここ、シリコンバレーではそんなことはないでしょうね。

デビッド : その通りです。勿論ないでしょう。(会場笑)でも、起業を目指している人は、わたしが働いていたような最悪の会社にあえて勤めてみると、モチベーションを上げる良い経験ですし、すべきでない間違えを考察することができます。

教授 : 良いところをついていますね。どんなことを学んだか、もう少し具体的に話していただけますか。

デビッド : マネージメントがひどかったのが原因ですね。誰かの下で働いた経験のない人たちが経営者でした。大学を出て、すぐに管理職に就いたような人たちです。

従業員の立場で考えることができないから、従業員が働く意義を持つことができるような労働環境を作ることができません。つまり、働く意義のある会社を作ることができません。

教授 : その会社のカルチャーが悪かったということですね。

デビッド : ひどいものでしたね。

教授 : なるほど。それではあなたがボスの立場だったら、どうしていましたか。

デビッド : おそらく同じことをしていたでしょう。(悪い例を目の当たりにすることで)労働環境がどれほど大切かを学びました。

それは、魔法や特別なことではなく、部下として働いた経験を活かすというシンプルなことです。それができなかった故、彼らのしていたことが滅茶苦茶だったのです。

教授 : わかりました。その会社を辞めでどうされましたか。

デビッド : ビジネススクールに入学しました。ドットコム時代が終末に近づいて、働いていた会社も沈みかけていました。

その会社はベンチャーキャピタルを入れていましたが、それもうまくいっていないようでしたので。学校に行って、それから身の振り方を考えるつもりでした。

教授 : それで、Ruby on Railsを開発したのですね。

デビッド : ビジネススクール在学中に37シグナルズとのコラボを始めてBasecampのプロジェクトに参加しました。そして、BasecampのプロジェクトがRuby on Rails誕生のきっかけになりました。

制約があることはプラス

教授 : その前に勤めていた会社が反面教師だったことを踏まえて、37シグナルズとコラボして良かった点など話していただけますか。

デビッド : 労働環境が良かったことです。当時、デンマーク在住で現地の学校に通っていました。37シグナルズはシカゴに在って、7時間の時差がありました。

ですから、シカゴからいつでも電話で連絡を取れるわけではありませんし、会議やあれこれで時間の無駄使いをすることもない。

その分、がっつり仕事をする時間がありました。(教授・会場笑)わたしと、37シグナルズのコミュニケーションは、出来上がった仕事を見せることでした。

会社が新しいデザインを考案したら、わたしがそれを取り入れて作業をする。それを会社が、「オーケー、いいんじゃない」とか「ちょっとやり直しして」と連絡をしてくる。

7時間という時差による制約があることは、お互いにコラボし過ぎ(過干渉す)ることもなく仕事に集中できました。

制約があるメリットを会社が充分認識しているので、37シグナルズの組織は、シカゴ以外の遠隔地に在住のスタッフで構成されています。

現在、シカゴにいるスタッフが半分ですが、そのほとんどが在宅勤務、あとの半分は世界中に散っています。

教授 : あなたは、現在コラボするだけではなく、パートナーですね。37シグナルズの目指すゴールはスタートアップ時と現在、変化はありますか。

デビッド : ほぼ同じです。常に初心に還ることを意識しています。素晴らしい経営哲学で始めた会社が成長過程で初期の哲学を失っていく例を見てきました。

それは、会社自体を簡単に破壊しかねないと考えています。わたしたちは意識して自問自答します。

「ヘイ!まだスタッフが3人しかいなくて、充分な時間がなかった時分にどうしていたかな。こんなことに時間を費やしていただろうか」と。

スタートアップ時と今とでは、若干環境に変化はありますが、インスピレーションの源は変わっていません。

教授 : もし、誤解があったら訂正してください。あなたはスモールカンパニーと、10億ドルに成長する可能性のある、いわゆるスケーラブルカンパニーは区別して考えておられるようですが。

デビッド : いいえ、両者は、ほぼ同じと考えています。

教授 : それでは、37シグナルズが、今の形態で、他のスケーラブルカンパニーのような成長を遂げると思われますか。

デビッド : 収入と従業員数には、もともと因果関係はありません。収入とばかげたポリシーの数との因果関係もありません。

ところが、あたかも因果関係があるように見えるのです。わたしは、大会社の経営方法がばかげていると思うことがありますが、大きな会社に成長するには、大会社のクローンのようでなければいけないと考えられがちです。

会議をたくさんしなくてはとか、事業開発スタッフを雇わなくてはいけないとか。ほとんどの会社が必要のないことでも、「すべき」と思ってしまうのです。

37シグナルズには、300万人を超えるユーザーがいます(スピーチ当時)が、会社は15人でまわしています。(教授ワォ!)スケーラブルでなければ、できないことです。

これが、要点です。スケーラブルであることと、スタッフの人数は正比例の関係ではありません。例えば、50万ドル収入を増やすには、2人従業員を増やさなければならないという構図は、スケーラブルとは思いません。

収入と従業員数は切り離して考えるべきです。37シグナルズなら、増員せずに、50万ドル収入を増やす方法を模索します。

教授 : すばらしいビジネスモデルですね。300万人以上のユーザーがいるとのことですが、大まかな収入額をご存知ですか。

デビッド : 1年半ほど前のユーザー数です。収入に関しては知りません。

教授 : でも、ファーストクラスで出張に行けるくらいは儲けておられるでしょうね。

デビッド : ファーストクラスに乗ろうと思えば、乗れます。でも、乗りません。

教授 : (学生に向かって)ほら、よく覚えておくのだよ。(会場笑)

デビッド : 誰のお金でファーストクラスの席を買うかですよ。(教授・会場笑)自分のお金で、少しばかり良い席に2時間座るために、2千ドル払うか。ノー。払いません。

教授 : それでは、自家用機なんかは買わないのでしょうね。

デビッド : そ、それはちょっと違います。(教授・会場爆笑)スポーツを楽しむことは必要です。

それと、成功したビジネスを運営していくのとは違います。ビジネスでは、1ドルのお金すら、自分の財布から出ていくというメンタリティーを持たなければいけません。

学生 : PhDの学生です。Ruby on Railsを使ってみました。そして、この製品を愛しています。驚くべき製品です。Ruby on Railsを開発された経緯を詳しくお聞かせください。

デビッド : 2003年の夏、37シグナルズ最初の製品となるBasecampを作り始めましたが、当初、Basecampは製品ではなく、自分たちが必要な社内ツールでした。

顧客管理が滅茶苦茶、お客様からのメールがどこにあるか分からない・紛失してしまった、どれが、アップデートした最新のファイルか解らないなどの問題があったので、その解決策としてBasecampのプロジェクトを開始しましたが、当時は製品化するつもりはありませんでした。

その時まで、わたしはユーザーとやり取りしながら、仕事をしていました。ユーザーの人たちは、特別な、でもおバカなアイデアを持込んできます。

こんなツールが欲しいなと言われるのですが、それはどこかで聞きかじったか、甥っ子が使っているとか、理想的とはいえないものを欲しがるのです。

当時、Ruby*2は、欧米ではあまり知名度がありませんでしたが、使ってみると、とても優秀なプログラム言語でした。

特に、誰かを感心させるつもりもなく、自分が働く環境を改良するつもりで、BasecampにRuby言語を使い始めました。そして、Basecampは社内プロジェクトから製品化することになりました。

製品化の過程で、Rubyをベースにして再利用のできるものを使ってBasecampを開発しようと思いたちました。

そして、そこに至るまでに自分が使った、オープンソース、無料のソフトウエアをシェアしない手はないと考えました。

これを自分のものだけにしておくのは、自己中心的で馬鹿げたことです。そして、Ruby on Railsを2004年にリリースしました。

すべて実際あったニーズを元に開発したものです。机上で理論をこね回して作ったものでも、ある日ある時どこかの誰かが必要としてくれそうなものを開発したのでもありません。

そして、この製品を週10時間で完成したかったのですが、JAVAやPHPなどの言語を使ったのでは時間内に収まらなかった。

もっと生産性の高い言語、そして、楽しんで開発できるものということで、往き着いた結果です。要は、制約を意識することで生まれたものです。

「マイクロソフトが参入かもしれないと懸念したことがありますか。もっと良いBasecamp(のような製品)を売り出すかもしれないですよ」と、言われたものです。

わたしの答えは、ノー。マイクロソフトが「Basecampはいいね。5人がガレージで作ったものだから、30人投入して、期間は2年、無現のリソースでやりましょう。

そして、もっと良いものをつくりましょう」と考えると思いますか。ノー。それだけの、資本を投入するプロジェクトは、3人が余暇を利用して6か月で完成するものとは次元が違います。(会場笑)

学生 : 開発には、お金がかかっていないようですが、マーケティングの資金についてはどうですか。

デビッド : 自己資金でビジネスを始めたら、手持ちの資金以上に経費を使うことができないのが大前提ですね。

開発のための資金もマーケティングの支出も限られている訳です。37シグナルズのやり方は、キャシー・シエラ*3の言葉で代弁されます。

“Outspend or Out Teach”
(訳注:マーケティングに膨大な支出をするか、それとも、過剰なほどに教育するか。SNSや口コミを駆使して、製品や製品の周辺情報や知識をシェアまた、学習の機会を提供してユーザーの興味を深める方法。即効性はないが、「情熱的な」ユーザーを創り出す効果があると考えられる)

37シグナルズは、Out Teachの方法を取ります。わたしたちは、会社がどのように経営されているか、どのように製品開発をするか、どんなテクノロジーを使っているかなどの情報をユーザーとシェアします。

このような情報をシェアすることによって、オーディエンスを創っていきます。これが、わたしたちの成功のキーでした。ユーザーを増やすのではなく、オーディエンスを創り出すのです。

この製品を買え・買えと押し付けることはしません。オーディエンスは、今現在、わたしたちの製品を必要としていないかもしれません。

会社のブログの読者がたくさんいますが、今日(製品を買って)お金を落としてくれるのでもありません。

しかし、将来、わたしたちの製品が必要になるかもしれない、または、それを必要とする人に(ブログで得た知識で)薦めてくれるかもしてません。

継続可能なビジネスはすべて口コミでその地位を獲得しています。マーケティングに力を入れるのもひとつの方法かもしれませんが、お金がかかります。

あなたのビジネスに興味を持ってくれる人がそんな大勢いるのかという問いかけをする人がいますが、すべてのビジネスは興味深いものです。

ある人には、全く面白くないものでも、耳を傾けてくれる人は他に大勢いるでしょう。あなたの、ニッチを気にかけてくれる人は必ずいるのです。

学生 : ビジネススクールで過ごした96.7%は無駄とのことですが、残りの3.3%の意義ある部分は何でしたか。

デビッド : 1ドルで仕入れて、2ドルで売ることで利益が出る。お客様は、モノに価値を見出して、値段に折り合いをつけるという、とても基本的なことが、学校に行くまでよく理解していませんでした。

それを、きちんと理解できていない人はWeb2.0界にも少しいますけど。資本主義的な考えかたですね。

あとは、ビジネスの基礎知識があるので、出鱈目なことを言ってくる奴を論破できることでしょうか。

ただ、ビジネススクールで勉強したことは、大勢従業員を抱えた大企業では役に立つかもしれませんが、15人ほどの小さな組織ではほとんど役に立たないと思いましたね。

ソフトウエアの業界はおかしなもので、ビッグサクセスやら、革新的なビジネスモデルで注目を集める会社がありますが、収入のサイズに着目するからすごいように見えて、実はそうでもない会社があります。

例えば、ソフトウエアを売っていて、粗利が5.9%なんて。原価がないようなモノを売っているのに。それを10年も続けているのはばかげていますね。

よく、アップルの市場シェアが、たった5%云々されますが、しっかり儲けているではないですか。iPhoneのシェアが15%ほどだったとしても、利益率50%ですよ。そういう会社を創ることにエネルギーを傾けるべきです。

学生 : ベンチャーキャピタルには反対の立場を取っておられますが、37シグナルズは数年前にジェフ・べゾス(アマゾンの創始者)からの出資を受けられたと記憶しています。

何故ですか。また、エンジェル投資家*4についてどうお考えですか。

デビッド : 37シグナルズを創設して、3~4年目頃、35~40件のベンチャーキャピタルからアプローチを受けました。

「もっと素敵なオフィスに移れということ?何をしてくれるか解らない人を雇えということ?」既に利益が上がっていたので、わたしたちは理解不能でしたから、却下しました。

ベゾス氏の場合、ます、ベンチャーキャピタルではなかった、3~4年の時限装置付ではなかった、20年かけてすごい会社にしよう、この会社を売却しないという条件でした。

そして、彼の出資は、会社を運営していく資金を提供するのではなく、会社としてのリスクを軽減するものでした。

そして、取締役の席を要求することもなく、会社の所有権もそのままという条件でしたから、ベンチャーキャピタルの出資とはまったく違う性質です。

エンジェル投資家は、悪魔的ではないとは言えます。(会場笑)しかし、彼らを入れるのは良くありません。自己資金で始めるべきです。

自己資金ということは、まず資金を調達しなければならないので、製品が市場に出せるようになるまでは、他の仕事をしていなければならないでしょう。37シグナルズの創始者たちは、昼間の仕事を持っていましたし、わたしは学生でした。

だから、単なるアイデアマンでは務まりません。プログラミングであれ、デザインであれ、会社に直接価値をもたらすメンバーでなければならない。3人しかいない会社に管理職はいりません。

今は15人ですが、管理職はいません。全員がプロデューサです。わたしは、今でもプログラミングをしますし、ジェーソン(フリード)*5はデザインを担当しています。

フルタイムの管理職を雇ったら、1日に8時間分の仕事を与えなければなりませんが、だいたい3日に40分ほどしか管理の仕事はないのです。暇なマネージャーは最悪ですね。

学生 : マネージャー不在で、物事を決めなければならない場合はどうされますか。

デビッド : ほとんどの場合、「いいんじゃない。それで行こう」で決まります。取締役会もありませんし、正式な意思決定方法はありません。

Campfireというチャットルームがあるので、良いアイデアがあったらチャットします。それで、「よし、やろう」「やめておこう」となります。

最終決定しなければならないことは、ジェーソンとわたしがすることになりますが、作業をする人と決定する人を完全に分離してしまうのは、良くないと考えています。

学生 : 利益が上がっている会社なら、もっと人を雇ってチャンスを与えたらいかがかとも思うのですが、あなたは、自分の資産を増やすことのみに興味があるように感じます。

デビッド : その通りです。わたしは自分の資産を増やしています。(会場笑)今、利益率が高いのであれば、もっと高い利益率を目指します。

利益率を下げることには興味がありません。もっと大勢の人を雇えば利益は減ります。わたしたちの製品価格は相場と比べると、かなり安いのですが、それはコストが低いからです。

競合している会社とは、原価構成が大きく違います。もし、セールスの人を一人雇ったら、現在15人で300万のユーザーを相手にしている値段では提供できません。

100人の人を雇うより、その100人の人自分のビジネスを起ち上げるように薦めますね。(会場笑、拍手)

学生 : 今が起業する最良の時機をおっしゃいましたが、もうすこし詳しく話していただけますか。

デビッド : 現在、(経済状況が悪いので)経費を削減することが最大の課題になっています。

例えば、ITの部署にお金を使いたくないので、37シグナルズの製品HighriseやBasecampに興味を持つ人が増えています。マイクロソフトのライセンスの出費を抑えたいという声もあります。

競合する会社よりも、格段に低い原価構成があれば、格段に低価格で製品を提供できます。それが、不況の時機に仕事が増えている理由です。また、ユーザーは新しいものを試したがっていることもあります。

今まで使っていた製品が不満になると、新しい製品を探して、試してみたくなるのです。経済が潤っているときは、あまり考えもなく既存の製品を買うでしょう。しかし、状況が逆転したとき、新製品に間口が広がるのです。

教授 : デビッド、今日はどうもありがとう。

脚注
*1 Web 2.0
旧来のドットコムにたいしての次世代のWebという意味で使われる。従来は、製作者が作ったものをユーザーが利用するだけだったが、次世代Webでは、複数のサービスを組み合わせて、ツールを作成できる。

*2 Ruby
まつもとゆきひろ(Matz)が開発したプログラム言語。日本で開発された言語で初めて国際規格に認証された。

*3 キャシー・シエラ
Sun社のマスタートレーナー。世界最大級のJavaコミュニティサイトの創設者でもある。

*4 エンジェル投資家
創立して日の浅い企業に資金を供給する投資家。投資と引き換えに株式を取る場合が多い。

*5 ジェーソン・フリード
37シグナルズの創始者。

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