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甲子園名物・かちわり。味もそっけもないところが最大の魅力!

夏の甲子園限定のかちわり

甲子園名物と言えばカレーライス。しかし、もう一つ忘れてはならない甲子園名物がある。それが「かちわり」だ。だが現在ではかちわりの存在すら知らない人が多いかも知れない。

かちわりは夏の甲子園のオリジナル・メニューだ。従ってタイガース戦はもちろん、高校野球でも春のセンバツでは販売されない。つまり、毎試合甲子園に通うようなタイガース・ファンでも、かちわりを知らない人も多いだろう。

かちわりとは、夏の甲子園にピッタリの商品

では、かちわりとはどんな物なのだろうか。簡単に言えば、金魚すくいで獲った金魚を入れるような小さなビニール袋に、ブッカキ氷を入れてストローを突き刺しただけの代物である。

なんだ、たったそれだけの物!?などと言うなかれ。これほど夏の甲子園に合う商品はないのだ。夏の甲子園では日光が容赦なく照りつける。当然、喉も乾くだろう。そんな時にジュースを飲むと、いくら冷たくても甘さが喉に絡んで余計に喉が渇く。ビールなら甘さがなくていいのだが、利尿作用があるし、やはり何杯でも飲んでしまう(筆者体験談)。

そこへいくと、かちわりは実に重宝する。買った時はただの氷なので、すぐには飲めない。氷が溶けるまでかちわりをオデコに当てて氷嚢代わりにし、暑さを凌ぐのだ。そして氷が溶け出すと、冷水をストローでチューチュー吸って飲むのである。ようやく冷たい水を飲める快感はたまらない。

しかし、そんな冷水はすぐになくなってしまう。そこでまた、かちわりを氷嚢代わりにして氷が溶けるのを待ち、溶けたらまたストローで吸う……。この繰り返しである。

かちわりとはなんてじれったい飲み物なのだ、などと思うかも知れない。でも、そこがかちわりのいいところなのだ。冷水がなかなか飲めないということは、氷がなかなか減らないということである。氷が溶けるまで氷嚢代わりにし、溶けると僅かな冷水を飲む。飲んでしまうとまた氷嚢代わりにして、溶けるとまた飲む。

この繰り返しで暑さを凌げるし、長時間かちわりを楽しむことが出来るのだ。普通の飲み物だったら一瞬のうちに飲み干してしまい、すぐに次の飲み物が欲しくなってしまう。だがかちわりはそういうこともなく、しかもただの冷水なので、甘さが喉に絡むことはない。

シンプル・イズ・ベスト。それがかちわりの真骨頂

子供の頃、夏の高校野球大阪大会を観に日生球場へ行った時のことだった。売り子がかちわりを売り歩いている。しかし日生球場で売っているかちわりは、甲子園の物とは全く違う代物だった。

ビニール袋ではなく、ラージサイズの紙コップにブッカキ氷を入れてストローを突き刺しているのである。それはまだいい。問題は、そのかちわりモドキに、メロンやストロベリーなどの蜜を入れていたのだ。

そんなバカな話があるか!かちわりに蜜なんて入れたら、かちわりの意味がなくなるではないか。それではただのかき氷だ。蜜を入れない、即ち甘さがないからこそ、かちわりの存在価値がある。蜜なんて入れてしまったら、喉に甘さが絡まるだけだ。

日生球場はかちわりの意味がわかってない!と憤慨していたら、筆者の前に座っていたオッサンが売り子にかちわりを注文した。

「ありがとうございます。(蜜は)メロンにしますか、ストロベリーにしますか?」
と売り子の兄ちゃんが言うと、そのオッサンは、
「いや、蜜はいらん。氷だけでいい」
と答えた。

売り子の兄ちゃんは「はあ?」と訝しがったが、筆者はこのオッサンに心の中で拍手を贈っていた。そう、かちわりは蜜がないからこそかちわりなのだ。このオッサンはその存在価値がわかっている、と。味もそっけもない、そこがかちわりの最大の魅力なのだ。

風前の灯となりつつあるかちわり。でもその存在価値は変わらない

だが、現在ではかなり状況が変わってきた。ペットボトルを凍らした飲料水が増えたため、かちわりの優位性が薄れてしまったのである。事実、最近ではかちわりの売り上げはかなり落ちているそうだ。

それでも、かちわりほど夏の甲子園に合う物はない、と断言する。氷嚢代わりにできるのはかちわりの最大の利点だし、喉の渇きをどうしても我慢出来なければ袋から氷を1個だけ取り出して、口の中に放り込むことも出来るのである。ペットボトルの中の飲料水をただ凍らせただけでは出来ない芸当だ。

灼熱の夏の甲子園で、かちわりはこれからも生き続けるだろう。これほど夏の甲子園に似合う商品はないのだから。

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