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カマキリの卵の位置で、その年の積雪量がわかる・・・のウソ

カマキリは、その年の積雪量を予測して、卵を積雪の位置よりも上に産みつける、というウワサを聞いたことがありませんか?

テレビなどでもこの学説は紹介されていたので、へぇ~と感心した人も多いと思いますし、この説は一応”定説”という事になっているようです。

昆虫や動物は、人間にはない特殊な能力が隠されているという神秘的な部分があるため、信憑性がありそうですが、実際に調査してみるとこの説は”ガセ”だという事がわかります。

カマキリの卵は雪に弱い?

カマキリが積雪量より上の位置に卵を産むのは、カマキリの卵(実際には卵鞘:らんしょうという、泡が固形化したスポンジ状のもので、卵嚢:らんのうとも呼ばれます)が、雪に埋もれることで窒息状態となるからだ、と言われています。

ただ、生物学から見た場合、この説は矛盾している事がわかるでしょう。

雪に埋もれる事で窒息状態になるのであれば、どんなに雪が積もっても埋もれない位置に、初めから卵鞘を産みつけるはずですよね。

弘前大学名誉教授である安藤喜一氏が、4ヶ月もの間雪に埋もれていたカマキリの卵鞘47個を採取し、ふ化状況を調べた結果、98%の卵鞘が無事にふ化したそうです。カマキリの卵が、特別に雪に弱いわけではないことがわかります。

カマキリの卵は水にも強い

更に安藤氏は、まる1ヶ月の間カマキリの卵鞘を水に浸しておき、ふ化状況を調べてもいますが、低温の水(0℃~7℃)の場合なら死亡率はわずか7%であることを、2008年に学会で発表しています。

カマキリの卵鞘というのは、空気をたくさん含んでいて弾力性にも優れているため、寒さや水などに耐えられるようにできています。例え雪に何ヶ月も埋もれたとしても、越冬できる能力を持っています。

産みつけられる位置はバラバラ

産みつけられる卵鞘は、実際にはカマキリの種類によっても違いますし、同じ種類でも高いところ、低いところと様々。同じ年の同じ種類のカマキリでも、産卵場所の高さには数倍もの高低差があるそうです。

では、カマキリが積雪の深さよりも高い位置に卵を産みつける、という定説が定着しているのはなぜなのか?

有名になったのは、酒井與喜夫氏著「かまきりの雪予想」という本で、そこには酒井氏の50年にも渡るカマキリの卵鞘の位置とその年の積雪情報がリンクされています。

この本には、ウソやジョークを言葉巧みに操り、読む人を信じ込ませるほどの巧妙な言い回しが至る所にちりばめられています。正直な話、酒井氏は文才に関しては天才的な才能を持っているということですね。

もちろん、酒井氏はだまそうとして「カマキリと雪予測」の本を書いたわけではなく、真剣に研究した結果である、としていますが、残念ながらその本には、研究としては重要な”実験”が成立していません。

「単なる言い伝えや伝説のようなものを研究し、後々にデータを都合良く並べ替えて真実のように書いている。」前述の安藤喜一氏は、このように言って酒井氏の説に反論しています。

その信じ込ませる文才が、酒井氏は大変優れているわけで、これが多くの人の共感を呼び、実際に酒井氏はこの研究で博士号まで取得しているくらいです。

天気予報が今ほど発達していなかった昔は、様々な動物・昆虫・植物の生態・自然現象などからその年の豊作を占ったものですが、そういった類には正しい事もあるし、まったくの思い込みもあります。

カマキリが産む卵の位置は、積雪の深さなど関係なく、高いものもあれば低いものもあり、カマキリを50年研究してきた、文才に優れ博士号まで取った人物が言葉巧みに本にしたため、多くの人が”科学的根拠がある”と信じてしまった、というわけです。

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