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「南無地獄大菩薩」という魂の居場所で、挫折を克服する方法

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2013.08.20

人は誰も、幸運や繁栄を求めて生きています。苦しみよりも安穏がよい、そう願うのは自然です。しかしながら人生の一刻、破滅的な事態に落とし込まれて身動きすらできなくなることもあり得ます。そんなときの心構えを、平素から練り上げておくことも必要ではないでしょうか。

白隠禅師の掛け軸の言葉

ある事業家が事業に手痛く失敗し、莫大な金策に追いまくられて、旧知の友を訪ねたそうです。すると茶室に通されて、しばらく待たされました。ふと見回すと、一幅の掛け軸が目に入りました。それをじっと見つめているうちに、次第に心を吸い取られていったといいます。それは、白隠禅師の言葉でした。

南無地獄大菩薩

そう大書してありました。氏の頭に巣食っていた「自殺」「破滅」「絶望」「挫折」などの言葉が、激しく音を立ててうごめきました。掛け軸の「地獄」という文字が魂を攻めたてて、耐え難い苦汁が胃の腑を突き上げました。

にもかかわらず、その文字は不気味な魅力をたたえて氏の心に執拗にからみついてきたといいます。思わず、氏は「南無地獄大菩薩」「南無地獄大菩薩」「南無地獄大菩薩」と3度、唱えていました。

地獄との縁を大切にしてみる

地獄を嫌うのは人の情です。でも、避けようとすればするほど覆いかぶさってくるのが、地獄というものの現実です。ならば、この忌まわしい地獄に立ち向かって、いっそそのまま「南無」を帰命(きみょう)してみよう。この恐ろしげな大菩薩を合掌礼拝してみたら、一体どうなるのだろうか?そう思った氏は、心の断崖から地獄の淵に飛び降りたのです。

突然、一条の光が射しました。「逃げられるような地獄は地獄ではない」という声が聞こえました。「南無地獄……まことにありがたいご縁である。とことん一緒に地獄しましょう。地獄の中でも自分らしく精一杯力を尽くしてから死にましょう」という自分の声でした。

この世はもとより地獄必定、浮世の栄耀栄華に何の永遠があろうものか――白隠の文字がそう語りかけても来ました。地獄が、逆に、人間に勇気をくれたのです。

背中合わせの地獄と極楽

30代の日本人の死亡率第1位は、なんと自殺だと聞いています。何という心の脆さでしょうか。高齢者の自殺であれば、多少は理解も届きますが、まだまだこれからという人々がなぜ、さほどにも心弱いのでしょう。

人は誰でも挫折します。挫折は、するときはすればいいのです。挫折を恐れて何もしないのは逃げです。大切なのは挫折して、挫折して、その地獄から這い上がるパワーを持つことです。

地獄に背を向けてはなりません。地獄と極楽は背中合わせです。両方あって、この世です。ちょうど電気のプラスとマイナスです。釣り合っている平生には地獄も見えません。

でも実は足元にいつも地獄はあるのです。事故・病気・犯罪・天災などなどの危険にさらされていながら、それらに目をつむっているだけです。重い障害を背負ったままこの世に生まれる人も少なくありませんが、地獄から逃げさえしなければ立派に生きていけます。

素直に直視すれば、地獄も菩薩です。「南無地獄大菩薩」「南無地獄大菩薩」「南無地獄大菩薩」と、3度唱えましょう。そして天なる神仏に定めをあずけて、私たちは自分の道を歩んでいけばいいのです。

雄々しい男たち

夢は大きく、希望は高く持っていいのですが、年相応に抱く夢の質は変わっていかなければいけません。例えば40代になったら、男は自分の道を自分なりに見定めていたいものです。それができずに、突拍子もない人生を夢見ていたら、愚か者と言われてしまうでしょう。

現実の中で、自分の行動に責任を取れない40代では落第です。それはある意味では「身の程を知る」ということですが、「地獄を恐れて小心に生きよ」ということでは決してありません。

何が起こるか分からないのが人生です。突然の地獄が展開するかもしれません。そんなとき、「南無地獄大菩薩」「南無地獄大菩薩」「南無地獄大菩薩」と3度唱えて、人生双六の振り出しからまた堂々と歩き始められる度胸を持ちたいのです。

それができるためには、やはり少し若いころから、腹の底に地獄を住まわせておいて「隣人」にしておく用意が肝要だと思います。地獄が人間に勇気をくれる、という信念を持った男たちは、いたずらにひるむことがないため雄々しいものです。

さて、冒頭の事業家ですが、白隠の書の深い筆色を凝視しているうちに、胸中の苦しみは不思議に消えて、気持ちが澄んできました。人の好意にすがろうとした自分の弱さが恥ずかしく感じられて、友人に金策の依頼をすることはやめ、静かに家を辞去したのでした。

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