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男には「ふるさと」など要らない?いやもう少し考えてみよう

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2013.12.19

「ふるさと」など思い浮かべて感傷にひたるのは、女子供のすることだと、そう感じている成人男性は少なくありません。でもたまには、君が遊び相手にしている水商売の女性たちの身になって、魂の帰所というものに思いを巡らせてみよう。

君にだって故郷はあるでしょうし、親もいることでしょう。既に亡くなってしまった親も含めて、「ふるさと」を持たない人はいないはずです。

志を果たして…

高野辰之作詞「ふるさと」は、兎追いしかの山……で始まります。3番には「志を果たして、いつの日にか帰らん」とあります。生まれた土地と、そこに暮らした家族たちに別れを告げて、都会に進出した人々の群が目に浮かびます。各人が描いた夢は、それぞれの経過を経て成し遂げられた場合もあり、あえなく沈没させてしまった夢も無数にあるでしょう。

心くじけて死にたい気持ちを抱いて、ある日ふと「ふるさと」に立ち帰ると、「ふるさとの山に向かひて言ふことなし」です。石川啄木ではなくても、ふるさとの山は誠にありがたいものです。実家の親や兄弟たちは、黙って肩を抱いてくれますし、勇気を手渡してくれるものです。

他面イヤラシイ場所でもある

他面では、「ふるさと」は帰りたいけれども帰れない所でもあります。ふるさとは「遠きにありて思うもの」なのです。あるときは恨めしく、あるときは疎ましいのも「ふるさと」です。

ずっとそこに住み続けていたのでは、故郷は故郷たり得ないものですし、志を見事に果たした者だけが、胸を張って凱旋することを許されている、そんなイヤラシイ場所が「ふるさと」でもあります。

色町の女たち

例えば、繁華街の色町を魚のように泳いで生き延びている女たちがいます。他人ばかりの盛り場です。薄情な客と店長に嫌がらせをされるのは毎日毎晩のこと。

とりわけ弱い女たちを食い物にして、骨までしゃぶった挙句の果てに、まるでビールの栓でもポイ捨てするように、自分の女をどぶに捨てて平然としているのがヤクザたちです。

母胎にも似た希望の場所

男の餌食にされ、深く傷ついて、彼女たちは幼い時代を過ごした「ふるさと」をとうの昔に忘れているのでしょうか。いや、そんな人はむしろ稀でしょう。

たとえ夢ははかなくついえてしまったとしても、その心の傷を癒すためにいつかはきっと帰りたい、母胎に似た希望の場所が「ふるさと」です。たとえ家族は散り散りになっていても、古い友は立ち去って音信不通のままであっても、「ふるさと」には揺籃期の自己を育んでくれた忘れ得ぬ思い出が光っているではありませんか。

そういう魂の埋め場があればこそ、意地汚い酒場でお客に心を弄ばれながらでも、水商売の女たちは厚化粧に隠れて笑って生きていられるのでしょう。

時には軽薄を演じ、自堕落をつくろってまでも、心太く生きていけるのだと思います。色と金のひしめく浮世のしがらみにがんじがらめにされながらも、毎晩毎晩、健気に化粧鏡に向かって可愛いコンパニオンに自分をこしらえ上げているのです。

「ふるさと」は胸の中に

やがて彼女たちも子供を産むでしょう。そして漂泊の身にピリオドを打たんがために、さまざまに努力をすることでしょう。そうした中で彼女の体の一部に声がします。「ふるさと」が懐かしい歌を唄っているのです。兎追いしかの山が、小鮒釣りしかの川が、自分の産んだ子供の笑顔に重なって聞こえてくるに違いありません。

帰ろうか、でもよそうか、ちょっとだけ様子を見に行ってみようか、あの景色はどうなったかしら、あの家は、あの神社は、この子にも私の故郷を見せてあげたい……。でも実は、突き詰めて言うなら、昔どおりの「ふるさと」はもうどこにもないのです。本当の「ふるさと」は胸の中以外には、残念ながらありません。

新しい「ふるさと」づくり

「ふるさと」というものは、喪失感と漂泊意識の兄弟なのです。思い出というものは、単なる過去ではなくて、本人が自力でつくり出していくものです。酒場の薄情な世界を抜け出した女たちは、今度は自分の過去を切り捨てて新しい「ふるさと」を創造すればいいのです。

再起を図る総合病院

男だとて、同じなのです。矛盾に蹴飛ばされ、財力に踏みつぶされて、汗と涙にまみれながら崖道を這い上がって生きている男たちにも、魂を癒す心の場所はぜひ必要です。

「ふるさと」は自分のかけがえのない「業」の別名でもあります。精一杯生きてきたと自負できる自分であれば、地味ではあっても温かい露天風呂のような「ふるさと」を持てるはずです。

まだそれを持っていない男は、これから徐々につくり上げていきましょう。それは一種の逃げ場でもあり、隠れ家でもあり、傷を癒し再起を図るための総合病院だと言っても過言でありません。

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