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なぜおじさんはももいろクローバーZで泣くのか?彼女たちの持つ魅力

いい年をしたおっさんがアイドルで号泣する現象

「私たちー、週末アイドル、ももいろクローバーZ!」

ももいろクローバーZがメディアに登場してきたころ、このフレーズが苦手という大人は多かったかと思います。若い女の子5人が歌い、踊り、キャーキャー笑っている…ようするに「よくいるアイドル」のひとグループだと、私もそう思っていました。

いい年になると、テレビなどに出てくるアイドルは少々苦手になります。なにをしゃべっているのかわからないし、下手すれば娘と同じような年齢の女の子たちが、パンツを見せるかどうかのギリギリのところをチラチラさせて踊っている…これだけでも、ちょっと辟易してしまいます。

しかし私の周りに、ももクロファン、通称「モノノフ」が増えてきたのです。みんな、私と同じようにキンキン声で歌うアイドルなど苦手なおっさんばかりでした。

「じつは最近、ももクロが好きで…」と恥ずかしそうに居酒屋で言い出す友人たちに驚愕し、私は一時期アンチももクロになったくらいです。メンバーの顔も名前も、何人グループかもわからないのに、です。

聴く音楽といえばディープ・パープルやピンクフロイド、ビートルズやビーチボーイズをミーハーなアイドルと毛嫌いし、邦楽で聴くのは友部正人くらいというゴリゴリに凝り固まった友人が「ももクロのライブのチケットが取れない」などとしょげている姿を見るに至って、ようやく「どんなもんか見てやろう」と重い腰を上げたのですが…。

映像サイトに上がっているライブ映像のとっかかりを観た瞬間、なぜか涙があふれてきました。重複しますが、メンバーの名前と顔も一致せず、もちろん曲などなにひとつ知らないおっさんが、若い女の子の歌い踊る姿を観て号泣してしまったのです。人生ではじめての体験でした。

さっそく私は友人らに連絡を取り、自分の感じたことをそのまま伝えました。すると、みんな同じであったと口々に言い出しました。俺も泣いた、自分も涙があふれたと。

きっかけとなった曲や映像はそれぞれ違いますが、最初にももクロに触れたときに涙が自然とあふれ出た現象は共通していました。いったい、これはなぜなのでしょうか。

アイドルという虚像が、その枠内で一線を越えるとき

ももクロは、現在20歳を筆頭に平均年齢18歳の5人グループアイドル(結成当時は6人)です。ブレイクしたのがここ2、3年のようですから、友人たちが涙したころは平均して15歳くらいのアイドルグループでした。

ライブステージを観るとよくわかるのですが、彼女たちはいわゆる「口パク」をしません。サビで5人の声がかぶさるときも、全部生声で歌います。もちろん小さなステージが主でしたから、歌詞をどこかに掲示することもありません。何十曲と披露するステージ上で、彼女らはほとんど歌詞を間違えないのです。

これがまず、私にとってはロックでした。歌詞を間違えないということは、歌詞の文脈を理解しているということです。人に歌を伝え届けるということは、人の心に歌を届け響かせるということは、歌い手がその歌詞を完全に租借し解釈しているということなのです。

また、ももクロの曲ははじけるような元気なナンバーが多く、その多くにきっちりとした振り付けがなされています。センターの女の子が、驚異的な跳躍力でえびぞりジャンプをしているところはごらんになったことがある方もいるでしょう。ああいったアクロバティックな振り付けも、時々出るものではなく毎回ライブのたびに必ずやるのです。

スポーツを少し本格的にやったことがある人ならわかるでしょうが、あそこまで本気で跳んで身体を反らせるというのは、いきなりでは絶対にできません。身体を壊します。

おそらく、えびぞりの子は毎回ライブ前に相当準備運動や柔軟をやっていると思われます。ほかのメンバーたちも、側転をしたり組体操をしたりと、「慣れ」だけではできない隠れた努力を相当しているはずです。

彼女たちは、ひとときもとどまっていません。曲の間中激しく踊り、ガラガラに枯れても声を張り上げて歌い、そしてかわいい衣装を着て常に笑顔です。

私はももクロの映像をあさり観たあと、なぜか無性に昔のプロレス映像が観たくなっている自分に気づきました。そう、完全なるショーとして観客に魅せるために、身体を作りに作るレスラーたち。キャラクターを出していかないと売れない(興行が成功しない)ため、いろんな格好や言動で客を沸かせ、ときには笑わせるレスラーたち。

やらせや八百長と叩かれても、本当の試合を観ると、試合の勝敗が最初から決まっていたとしてもそんなことはどうでもよくなる選手たちの「ガチ」が、観客の心を大きくつかんで揺さぶるのです。

若いころ、国民的興行だったプロレスに興奮し、絶叫し、自分のいまの状況と選手たちの戦い方を重ね合わせて奮起したり、涙したり…その時の封印されていた固い扉のカギが、ももクロを観た瞬間にこじ開けられたというのが出た答えでした。

もしもあなたがおっさんで、なにを観ても聴いてももう若かったころの高揚は戻ってこないのだと思っているなら、だまされたと思って一度ももクロのライブ映像を観てみてください。今となっては、友人たちの言葉に口の端で嗤っていたあの時間がもったいなくてたまらない私がいます。

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